兒玉大使とパリ経済学院ピケティ教授との懇談
2014年12月
多くのOECD諸国で格差への対応が重要な政策課題となっています。NAECイニシアティヴ等の研究プロジェクトに見られるとおり、国際機関としてのOECDにとっても格差は重要な分析対象となっています。このため2度に渡って事務局にて講演会が開催される等、パリ経済学院トマ・ピケティ教授及びその著書「Le capital au 21e siècle(21世紀の資本)」にOECDでも大きな注目が集まっています。
OECD代表部児玉大使は、パリ市内の教授の研究室を訪問し、最近のOECDの格差に関する取り組みや政策課題について教授と意見交換を行いました。その際のピケティ教授の発言の興味深い点をいくつかご紹介します。
(概要)
- 高齢化、人口減少は格差問題を更に深刻にする可能性。高齢化という点から見ても、格差に対応するシステムを指向する必要があるのではないか。
- 日本にも対GDP600%という大きな民間資産があり、累進資産税による所得再分配を行う余地はあるのではないか。
- 大きな格差は経済成長によい影響を与えない可能性があるというOECDなどの研究成果(注)には同意できる。適度な格差は成長やインセンティブに有益である可能性があるが、ある一定のレベルを超えると格差は経済成長にとってよいものではなくなる。
- 産業革命以前の人類史上ほとんどの期間、経済成長率(g)はゼロあるいはゼロ近傍であったのに対して、資産は土地のレントの裏付けにより高い収益率(r)を享受してきた(r>g)。日本の高度成長も戦後復興による一時的なものであり、資産の収益率ほどの成長を維持することはできない。
- 今後は、研究の対象国を新興国も含めて広げたい。OECDなどの国際機関とも連携し一国の資産やバランスシートについて格差のデータ作成を行っていく必要があるだろう。
(注)OECDワーキングペーパーF. Cingano(2014)"Trends in income inequality and its impact on economic growth"をご覧下さい。日本語概要は以下のURLから参照できます。
http://www.oecd.emb-japan.go.jp/pdf/final_jap_summary.pdf