OECD設立五十周年に寄せて
内閣総理大臣 菅 直人
経済協力開発機構(OECD)が、2011年にその創設から50周年を迎えられることにつき、日本国民を代表してお祝いを申し上げます。この節目の年にあたり、OECDのこれまでの功績を振り返りつつ、今後期待される役割について、以下に私の考えを述べてみたいと思います。
(1.OECDが果たしてきた役割)
わが国の戦後の歩みにおいて、OECDは重要な役割を果たしてきました。創設後わずか三年後である1964年に日本は最初の非欧米国としてOECDに加盟して以降、その活動や議論に真摯に参加し、政策提言や助言を咀嚼して自国の政策・立案に生かしてきました。「世界のシンクタンク」と呼ばれるとおり、OECDは、経済問題のみならず開発、社会、教育、環境など広範な分野についての専門家集団を抱え、地道に、しかしその時々の国際的な課題に対しても意味のある貢献を果たしてきたと思います。このようなOECDの貢献が、世界経済の安定的な運営に果たしてきた役割の大きさについては、ここで改めて強調したいと思います。
(2.今後の課題)
さて、半世紀が経過した現在、我々は、新興諸国の台頭という国際社会の構造変化の中で、気候変動などグローバルな取り組みを要する課題や、少子高齢化などの社会的課題に直面しています。また、未曾有の金融・経済危機の後、回復を持続可能なものとするために、国際社会での協調がかつてなく求められています。これらの諸課題に対して、今後OECDがどのようなかたちで貢献していけるのか、そして世界の中でその有用性を如何に維持・発展させていけるのでしょうか。
私は、これらの課題に対処するためには、OECDがその良き伝統を維持しつつ、常に世界的な広がりの中で、つまり非加盟国との関係においても、その「魅力」を示し続けることが鍵になると考えます。
OECDの良き伝統には、他国の経験・知見を共に学ぶという「ピア・ラーニング」(peer learning)があります。互いに率直な意見を述べつつ実のある議論をするとの土壌は大変重要であり、このような中から様々なルールが作り出され、また各国にとって意味ある提言が数限りなく生まれてきたと言えます。
好ましいことに、近年、このようなOECDの魅力がだんだんと新興国をはじめとする非加盟国に認識されてきているようです。いわゆる「アウトリーチ」活動として様々な地域でOECDが関係するフォーラムなどが開催され、新興国・途上国の政策担当者や専門家が熱心に参加していると聞いています。特に東南アジア地域はOECDの戦略的重点地域と位置づけられており、同地域にあるいくつもの国が、投資環境整備のためのOECDによる専門的提言などに学んでいます。わが国としては、このようなOECDのアウトリーチ活動を引き続き支援していく考えです。
また、もう一つのOECDの伝統というべきものに、その分野横断的な分析力や構造問題への提言力があります。特定分野のみにとどまらず、多面的に分析できる能力であり、グローバルな諸課題への取り組みにおいては特にこのような分野横断性が求められます。例えば、「グリーン成長」は、産業技術分野でのイノベーション、環境、人口、教育など実に様々な分野に関わるものです。
また、構造的な問題を解決するために何をどう変えていくべきかについて、客観的な見通しに基づいた提言ができる点も、今後も引き続きOECDの強みであると思います。
ますます複雑化するように見えるグローバルな諸課題に取り組む上で、OECDがこれらの良さや強みを一層発揮することを望みます。私は、OECDが、グリア事務総長の指導力の下で、G8やG20、アジア太平洋経済協力(APEC)などに対し行っている貢献を高く評価していますが、これらの貢献は、まさにこれまで培われたOECDの比較優位性を生かした有益なものであると思います。そして、グローバルな広がりの中でOECDがその専門性を存分に発揮し、「世界のOECD」と呼ばれるべく更なる役割を果たされることを期待しています。
(3.わが国の課題とOECD)
財政再建、雇用の確保や人材育成、教育、少子高齢化など、わが国が取り組まなければならない課題の多くは、OECDの場においても取り上げられています。本年6 月にわが国は「新成長戦略」を策定し、強い経済、強い財政、強い社会保障の一体的実現をはかることを表明し、9 月には「新成長戦略実現会議」を設けて今後の具体的施策の議論を始めましたが、新成長戦略策定にあたってはOECDから貴重なご意見をいただきました。
私は、経済社会が抱える課題の解決を新たな需要や雇用創出のきっかけとし、それを成長につなげることが重要であると考えておりますが、そのために必要となる専門的知見や知恵を得る上で、OECDは有益であります。そしてこのようなかたちで、他の加盟国やさらには新興国がOECDを一層活用する余地はまだまだ大きいと感じます。
(4.結語)
思うに毎年、世界中の閣僚レベル、政策担当者、専門家等数え切れないほどの方々が、様々なOECDの会合に出席しています。そしてその場で発信をし、他の参加者の議論に耳を傾け、自らの政策の参考とし、またその場での議論に基づきOECD事務局の有能な職員が分析・提言を行っています。このような営みの50 年間は実に尊いものです。
以上、過去50 年を振り返りつつ、将来のOECDに期待される役割を考えるとき、私は、OECDが引き続き高い価値を提供する国際機関として国際社会に貢献し続けると確信しております。そしてわが国としても必要な支援を惜しまない考えです。