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OECD邦人職員インタビュー:横井眞美子 金融企業局金融課 
首席分析官・保険政策チーム長

2016年6月

横井眞美子 金融企業局金融課 首席分析官・保険政策チーム長

質問1. OECDで勤務することになった経緯を教えてください。

 高校生の時、奨学金をもらい海外でバカロレアをする機会があり、それをきっかけに国際機関もしくは海外で勤務したいという漠然とした志望を持っていました。大学卒業を前に、できれば公的な機関で働き、社会に役立つ仕事ができたらと思い、日本銀行に就職しました。しかし、やはり海外へ向かうためには大学院で勉強する必要があるのではないかと思い、日銀に勤務しながら社会人を対象にした修士課程に入学しました。卒業近くになり、懇意の教授から是非ロンドン大学で法学博士を取得したらどうかと薦められ、薦められるままに日銀を退職して、ロンドン大学の博士課程に入学しました。その後、ロンドン大学博士課程修了後も、大学に残り法学の修士課程を指導しながら、数年研究を続けたのですが、教えることに熱意を感じませんでした。そこで、金融庁で研究官をしていた友人に誘われて、2年の期間限定で大学を休職し、金融庁で研究官をすることになりました。

OECDについては、勤務を開始するまでフランス語の能力が求められる国際機関という印象を持っていましたが、金融庁に勤務していた時に、OECDでの勤務経験がある幹部に、国際機関、特にOECDでの勤務を提案されて、英語のみできればいいということを教えてもらい応募するきっかけとなりました。応募したポストはOECD加盟候補国の金融市場制度の審査をするというものでした。書類審査の合格通知は、応募したことを完全に忘れた頃に舞い込みました。

こう聞くと、私が、かなり気軽に人の勧めに乗ってしまうということが分かると思いますが、それぞれの職場でいいメンターに恵まれ、自分では必ずしも思い至らないアドバイスをしてもらったという幸運がありました。結果的に高校の時に目指した職場環境に巡り合うことができました。

質問2. 現在、金融企業局でどのような仕事に携わっておられますか。

 現在は保険・私的年金委員会のコーディネイトと運営が主な仕事です。これは昨年の9月ころからの所掌事項で、それ以前から担当していた仕事にも引き続き関わっています。保険・私的年金委員会(IPPC)は、主に保険市場のモニタリング、保険政策、規制の議論を行う会合です。IPPCでは主に保険統計の集計、自然・人的災害の保険、財務上のリスク管理、保険投資に関わる政策、機関投資家の長期投資について、保険会社のガバナンス、保険の消費者保護政策、個人年金保険等について議論しています。

 その中で私は、投資規制、ガバナンス、モニタリングに関するレポートを執筆しています。最近は私的年金の同僚と共に、低利環境下の影響、投資規制の変遷に関するレポートを執筆し、出版物に掲載したり、G20に提出したりしています。これに加えて、委員会に提出される全てのレポートに目を通し、コメントすることが求められます。特に委員会に求める手続き的な手順の段取りを着けることは大きな役目です。国際機関は公的な機関であるという性質から、予算の編成、非加盟国の参加、ペーパーの回覧に関してまで詳細なルールがあるので、それに則りながら、時間通りに委員会の作業を進めていくには調整が必要となります。

 その他には、OECD加盟候補国の金融市場や保険市場の審査と、その結果の取りまとめに引き続き関わっています。これまで4カ国の審査に関与し、加盟が実現し、現在はコロンビア、ラトビアについて、金融市場と保険市場の両方で審査を進めています(注:その後、ラトビアは2016年のOECD閣僚理事会の機会にOECDに加盟しました。)。金融市場についてはOECDの金融市場委員会(CMF)の方で行っていて、この関係からCMFにも深く関わっています。加盟国審査は政策提言をし、その動向もチェックされるため、かなり慎重に公正かつ中立な提言をするように心がけ、これまでの国際的な標準に合致するものになるように努力しています。言うまでもなく、政策提言がその国の金融・保険市場の発展に役に立つものでなければ意味がないからです。

 OECDは資本移動の自由化に関する規約(Codes of Liberalisation)という市場開放に関する合意を所管しています。これは資本移動と業務上の拠点や関連する投資に関するものの2つに分かれているのですが、金融市場に関する項目が非常に多いので、規約に関する主担当の課と共同作業で深く関わっています。

 その他にサイバー保険に関するプロジェクトを立ち上げています。インターネット上の情報漏洩に関する報道はよく見かけるかと思いますが、こういった場合に、サイバー保険を利用することにより漏洩に際する様々なコストを保険により保障することができるため、国際的な関心が高まっています。

 各地域において保険私的年金委員会の活動をより幅広く知ってもらうためにも色々と活動しています。2016年6月からアジアにおいて保険、私的年金、そして災害における保険、財務管理に関するコンファレンスを年1回程度開催する予定です。また、ラテン・アメリカにおいてもInter-American Development Bankと災害保険に関する活動を議論しております。APECやG20との協力もOECDにとっては重要で、各レベルでインプットできる政策アドバイスを提供しています。

横井眞美子 金融企業局金融課 首席分析官・保険政策チーム長

質問3. OECDと、それまで勤務された日本銀行や金融庁とでは、仕事の仕方や職場の様子は、どのように異なりますか。

 日銀は中央銀行、「銀行」という性質を反映して、すべての事項について何人で何度もチェックするという、かなり保守的な仕事の進め方でした。日銀では仕事の基本、日本の職場のあり方を教わりました。職員間の横の連携が非常に強いので、今でも日銀勤務時の知り合いに色々と協力してもらうことが多いです。

 金融庁は、日銀と類似する職文化かと思われるかもしれませんが、当時は比較的新しく設置され、業務が山積していたという事情も反映し、オープンで、若い人にも責任を持たせてどんどん仕事に関わらせるというものでした。金融庁では、2年弱という期間にもかかわらず、様々な国際的な場面で活用してもらい、金融監督に関わりたいというわがままを聞いてもらい、別の部署に併任させてもらったりしました。そういった経験を通じて、大きなラーニングカーブの2年間を過ごしました。

 OECDは仕事が出来る人に仕事が集まる、起業的な心持ちで新しいプロジェクトを立ち上げていくというところに一番特徴があるのではないかと思います。同僚に言われたことがあるのですが、OECDに長く在籍することがある意味OECDで成功する秘訣です。それは、誰に連絡し、誰に協力してもらえばいいのかが分かるからなのでしょう。私自身、勤務した最初の4年は迷走し、自分の特徴を出し切れていなかったと思います。しかし、同僚には非常に恵まれ、課の中の雰囲気も非常に良く、同僚と刺激的な議論を行えることはOECDに勤務して一番良かったと思えることです。

 基本的にOECDの組織形態は日本での職場に比べ、ヒエラルキーが小さい、フラットなものです。しかし、本当にフラットというと必ずしもそうでなく、しかも職位の高低と必ずしも一致するものでないと思います。上下関係がはっきりした職場ではなく、そういった点に、日本人でなくとも他の職場から転職してきた同僚が戸惑うのを良く見かけます。

横井眞美子 金融企業局金融課 首席分析官・保険政策チーム長

質問4. OECDで勤務する魅力は何ですか、また反対に、難しさはどんなところにありますか。

 優秀な同僚と様々な議論をできることが最大の魅力だと思います。議論といっても、必ずしも仕事上のことでなく、時事的、歴史的な項目であっても同僚と話をするのは面白いです。(ただ、課の雰囲気はそれぞれ異なるので、これが必ずしもOECD全般について言えるのか分かりません。)委員会は各国の政府代表から構成されていて、多様な国の政府代表とレポートについて議論し、調整しながら仕上げていくのも面白いです。

 私の立場上、委員会に来るほとんどの政府代表に声をかけ、レポートに貢献してもらえるように関わりを持って行くことが求められます。これは負担でもあるのですが、仕事の醍醐味です。政府によって意見が違いますし、意図を汲みながら人的関係を維持していくことが必要で、面白い仕事の所以でもあります。

 OECDで仕事をする難しさは、アイデイアを出しながらプロジェクトを立ち上げていく必要があるという点です。起業的精神、積極性がないと継続的に面白いプロジェクトに関わることができません。よく同僚ともこのことについて考えを交わしますが、やはりチャーミング、外交的な性質のイタリア人等はこういったことは得意です。その一方、日本人は真面目、地道さが強みかも知れませんが、そんなチャーミングな人達と競い合っていくのはなかなか大変です。

質問5. これまで、OECDやその他の職場で勤務される上で、ご家族との両立が難しくなったことはありますか。 また、OECDは、家事や育児との両立を支援していると聞きましたが、本当ですか。

 OECDは国際機関と言っても、シンクタンク的な機能が強く出張が比較的少ないためそれほど困ったことはありません。また、OECDは欧州の社会福祉を重視する文化を色濃く汲んでいるので、子供のことで勤務時間を調整したり、休暇を取ったりすることについては極めて理解があると思います。私は着任時に妊娠6ヶ月だったのですが、上司はそれを聞いた際は相当うんざりしたと思いますが、愚痴や文句を上司、同僚から言われたことは一度もありません。また、学校の用事や医者との約束のために勤務時間中に少し抜けても、相当な負の影響を生じない限りは、皆、寛容に認めています。この点は、当然ながら、上司や同僚にもよるのかも知れませんが、究極的には、期限内に質の高い成果物が準備できることが最も重視されていると思います。

 OECDは、子女手当が支給されますが、他の国際機関と違い保育施設がなく、学校教育に関するサポートはありません。他の国際機関のサポート体制を知っていたため、このようなサービスを期待していたので、この点はがっかりで、保育や学校の段取りがつくまで着任から一年近くかかりました。また、子供達の習い事やスポーツに関する情報も、パリの各区が一応は提供しているのですが、やはり人から聞き伝えで知った情報が一番役に立ちます。こういう意味でもOECD側からサポートがないのは残念です。我が家には大、中、小の3人の子供がいますが、日本語教育、スポーツ、学校休暇中のアクティビティについて常にアンテナを張り、情報収集しています。最近金融企業局の中間管理職以上の女性で数ヶ月に一度お昼を食べながらリーダーシップ等といったトピックで議論したりしますが、こんな場面でも女性同士のネットワークを強化して情報交換しています。

 家族がいると一定の子女、教育手当てがつきます。これはどの国際機関でも適用されることで、この手当ての金額が、給料を含め保育等を考慮し十分かどうかはポストのレベルによると思います。我が家は夫婦共働きのため、家庭を維持するための諸費用には問題ありませんが、共働きでない場合は十分かどうかは分かりません。OECD職員は外交官と同様の滞在許可証を持つため、基本的に家族は一定以上の所得を得る勤務をすることが禁止されています。こういったこともパートナーがいると考慮事項になってくると思います。

 うちの場合は夫が英国で大学教授をしているため自宅で研究している時間が多く、育児にも積極的に協力してもらっているため比較的順調に回っていると思います。家族が近くにいる訳でもないため、協力体制がないとなかなか難しいのではないかと思います。特に委員会前は帰宅が遅くなることが多く、平日は、夫のレパートリーの少ない料理で切り抜けています。子どもたちはこれに対して時に不満を言いますが。Facebook社の最高執行責任者のシェリル・サンドバーグも述べているとおり、家庭と仕事の両立には平等のパートナーを選ぶことが最も重要です。若い頃はこういったことは認識しにくいですが、実質的には一番の重要要素だと実感します。

横井眞美子 金融企業局金融課 首席分析官・保険政策チーム長

質問6. 今後どのようなキャリアを希望しておられますか。

 これまで「面白い仕事をやりたい」というかなり単純な発想から仕事を選んでいて、今の上司である金融企業局局長にも、多少の煩雑な委員会運営にかかわることも引き受けるが、とにかく面白い仕事をやらせてほしいといつも希望を述べています。

 私にとって面白い仕事というのは新しい発想で問題に取り組み、どういう形で取り組んだら、より良い方向性を分析的に示すことができるかを考えることです。私自身は数量経済の訓練を受けていないのですが、OECD内、局内でもこういった実証分析を好む傾向にあるので、同僚と相談しながら、どういったプロジェクトを行っていくか、データの入手可能性等を考えながら相談するのは楽しいです。また、OECDの分析の特徴として、加盟国等に対しサーベイ等を回付し、情報を集計し分析することもあるので、サーベイの手法等も大事です。

 これまで、引越しや転職をかなり頻繁に繰り返してきましたので、しばらくは、子供達に安定した学校生活を過ごさせる事を優先したいので、OECD内で出来る限り面白い仕事を追求しようと思っています。