OECD日本政府代表部職員の声:釜井宏行書記官
国際機関と日本との橋渡し-科学技術・原子力担当として
OECD日本政府代表部一等書記官 釜井宏行

私は2012年の夏に文部科学省からOECD日本政府代表部に出向し、早いものでパリでの生活も2年超が経ちました。OECD(経済協力開発機構)は,1961に発足して以来,「世界のシンクタンク」として、国際社会全体にとって望ましい政策の提言・基準の作成などの取組を行っています。
私はOECD日本政府代表部の一員として、科学技術、原子力を担当分野としてOECD関係部局と日本の関係省との「橋渡し」を行っています。
外交官として~「日本への貢献」と「国際社会への貢献」との「橋渡し」
着任以来、実感しているのは、国際状況と日本の立場・状況の両方を俯瞰し、客観的に観ることの重要性です。国際的な議論において有益な情報のみならず、日本の政策や取組に対する評価・見方があれば、よくも悪くも正と負の面両方を日本に的確に伝える一方で、日本として譲れない線は明確に説明し国際的な理解を得なければなりません。有益な情報を如何に収集し、交渉を進められるかは日頃のネットワークと相手との信頼関係に立脚している中で、自分自身、OECDのカウンターパートと日本とを上手く繋ぎ、日本に還元していけるよう胆に銘じ一日一日を過ごしていきたいと思っています。
日本のOECD加盟50周年-議長国対応
私達は今年幸いにも、日本のOECD加盟50周年、36年ぶりの日本の閣僚理事会議長国という歴史的瞬間に居合わせることができました。様々な関係者のご協力の下、当代表部としても大使の下一丸となってロジ、サブ等の対応をしました。直前及び本番期間中は大変でしたが、こうした歴史的なイベントを無事終了させることができたという充実感と、館員同士で協力し合いながら対応できたという連帯感が生まれたように思います。

私の担当は、ロジ担当に加え、閣僚理事会とBack-to-Backで行われる有識者セッションである「OECDフォーラム」における日本側からの目玉となる基調講演として、2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞された京都大学の山中教授の招へいを担当させていただきました。私は前職の関係で山中教授と面識はありましたが、山中教授の研究内容や今後の問題意識を的確にOECD側に伝えることは必ずしも簡単でなく、他の同僚の方の協力を得て粘り強く担当部局に通う日が続きましたが、結果的には先方も良く理解頂き、結果的に本番では山中教授がご自身の研究体験に基づく大変素晴らしいスピーチをして頂き、日本のOECD加盟50周年という記念すべき年にこれ以上ない最高のスピーカーであったと理解しています。私自身何度か先生のスピーチを拝聴させて頂いた時がありましたが、今回のスピーチは、感極まって涙を流しそうでした。また、その場にいた多くの聴衆の方からも感動されたとの声をいただきました。
写真提供/「京都大学iPS細胞研究所(CiRA)」
原子力機関(NEA)との関係
私はOECDの関係機関のうち、原子力発電を安全で、環境に調和した経済的なエネルギー源として開発利用することを、加盟諸国政府間の協力によって促進することを目的とした原子力機関(Nuclear Energy Agency)を担当しています。NEAは国際基準を策定するような機関ではありませんが、その専門性を活かし、原子力先進国諸国間で将来的に国際的スタンダード、趨勢につながるような専門性の高い質の高い議論をしてきました。
このような中、2011年3月の福島原発事故以降、その議論は激変し、大部分が福島原発の対応となりました。NEA加盟国間でも日本、とりわけ福島に関する関心が非常に高い中、私自身、膨大な議論の内容を峻別し、有益な情報を如何に効率よく日本の関係省庁に伝えるとともに、普段のNEA事務局とのやりとり及び東京から代表団が来れない場合の会議での説明の際に、如何に日本の状況を的確に伝えるかということに苦心してきました。
その成果、幸いにも着実に、日本とNEAとの関係が狭まってきているようにも思います。 国際的機関のNEAの活動の中には、必ずしも即効性を持って自国の原子力政策に役立つ取組ではないものもありますが、安全に配慮した上で原子力の平和利用を行うことが大前提となっている中、国際的な視点で考えなければならない課題は益々増えてくると思います。このような中、放射線の科学的影響に関するステークホルダーインボルブメントや原子炉新規建設に当たっての多国間設計評価の取り組み等、長期的な視点では必ず日本をはじめとする加盟国に還元されると考えております。
今後ともOECD代表部員として、NEAと日本との橋渡しを行っていきたいと思います。
大使主催エチャバリ前NEA事務局長叙勲伝達式・レセプションにて