OECD日本政府代表部職員の声: 宮崎由佳書記官
OECDの活動紹介
OECD日本政府代表部二等書記官 宮崎由佳

2013年夏以降、経済産業省からOECD日本政府代表部に出向しています。今回は、OECD日本政府代表部における私の業務とOECDの活動の一端を御紹介させて頂きます。
OECD日本政府代表部員の役割 ~日本とOECDを繋ぐ橋渡し
OECDは、加盟国間の自由な意見交換・情報交換を通じて、(1)経済成長、(2)貿易自由化、(3)途上国支援に貢献することを目的とした国際機関です。OECD日本政府代表部の役割は、OECDが『世界最大のシンクタンク』として、国際公共財となるアイデアや知識を議論・提供し、日本や他の加盟国、さらには国際経済社会に資する存在として機能し続けられるよう、その一端を担うことであると考えています。
私の日々の業務を一言で表現すると、日本とOECDを繋ぐ橋渡しです。この橋渡しには大きく2つの側面があると思います。一つ目は、日本がOECDにおける知の創造に貢献できるよう、日頃からOECD関係部局や他の加盟国に対して日本の立場や知見を伝え、議論をすることです。OECDは1961年の発足以来、加盟国が直面する政策課題を議論し、多くの政策提言を行ってきました。一方で、国境を越えた経済活動や各国経済の相互依存関係の深化、新興国の台頭等により、OECD加盟国だけでは解決しきれない政策課題も増えてきています。特に近年は世界経済におけるアジア諸国の重要性も増してきており、欧米諸国が多いOECDにおいて、アジアの一員である日本が果たし得る役割も大きくなってきていると感じます。加盟国が一堂に集まって正式な議論を行う機会は限られているため、OECD日本政府代表部員は、日々の非公式な場を通じてOECDの関係者と必要や調整や連携を行っています。
二つ目は、OECDの活動を日本の政策立案、ひいては日本の経済社会の発展に還元できるよう、その議論や研究成果を日本に紹介することです。OECDは国連等の他の国際機関に比べると加盟国数が少ないですが、同質性(like-mindedness)を保った国家の集まりであり、客観的データの収集とそれに基づいた政策議論を重視しています。また、加盟国には比較的同じような政策課題に直面する国が多いため、望ましい政策の方向性や国際協力の可能性について互いに知恵を出し合ったり、最新の政策を紹介しあったりする場として機能しやすいという特徴もあります。このようなOECDならではの活動を日本に最大限還元できるよう、日本を取り巻く環境と政策課題、他国との共通点と相違点を踏まえつつ、日本の関係者に紹介することを心がけています。
OECDにおけるデジタル経済政策の議論~強靭な社会の実現に向けて
OECDの活動は、分野別の委員会や作業部会における加盟国間の政策議論から成り立っています。経済、貿易、開発援助、金融、租税、企業、科学技術、環境、教育、エネルギー等、その範囲は幅広く、委員会と関連会合の数は200以上に及びます。私はこの中でも、「デジタル経済政策委員会」という、持続的な経済社会の発展に資する情報通信技術(ICT)政策について議論を行う委員会を担当しています。
2014年は日本のOECD加盟50周年という記念すべき年でした。日本は閣僚理事会の議長を務めたほか、いくつかのOECD関連会合をホストしました。「デジタル経済政策委員会」の活動の一環として東京で開催された「OECD知識経済に関するグローバルフォーラム~強靭な社会にむけてのデータ駆動型イノベーション~」(経済産業省、総務省、OECDの共催)もその一例です。世界各国から政府、企業、研究機関、市民団体等の関係者が約400名集まり、『新しい石油』とも称されるデータの経済的・社会的便益、利活用に伴う課題、望ましい政策の方向性について活発な議論が行われました。
本フォーラムの開催に当たっては、議題設定から成果物の出し方まで、一連の企画を日本が先導しました。また、日本開催の利を活かして、アジア諸国の関係者にも参加して頂いてOECD加盟国と非加盟国間の関係を深める機会としたほか、展示ブースを設けて日本のビッグデータ関連技術や震災ビッグデータ等の最新の取組を世界にアピールしました。私自身は、準備段階及びフォーラム当日に経済産業省と総務省、OECD関係部局とをつないで様々な調整を行いました。多くの関係者の思いがぶつかる激しい議論を繰り返すこともありましたが、最終的には、グローバルな政策課題についてアイデアや知識を議論・提供するというOECDの活動に日本として大いに貢献するとともに、日本の関係者にも世界の議論に参加して頂ける機会になったのではないかと感じています。OECDでは、本フォーラムの成果を踏まえて、今後更にビッグデータに関する政策議論を深めていくことになります。
OECD知識経済に関するグローバルフォーラムにおけるキヴィニエミOECD事務次長のスピーチ
OECDの反腐敗活動 ~透明で公正な国際市場の構築に向けて
私は、「国際商取引における贈賄作業部会」という会合も担当しています。本会合は透明で公正な国際市場の構築を目的とするもので、1997年に「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」を採択して以来、条約批准国間でその履行状況を相互審査しています。本会合では、最近、条約を批准していない国との関係強化が課題になりつつあります。批准国間で条約の実効性を高めていくことはもちろん重要ですが、企業活動のグローバル化が進展する中で、如何にしてその他の国と反贈賄の理念を共有していくかも大切です。私自身も、アジア諸国との効果的な協力関係の構築方法についてOECD関係部局からアドバイスを求められることが多々あります。ここで皆が直面している苦労は、関係者や関係国の多さと多様性です。政府、企業、贈賄の提供側、需要側等、あらゆる関係者が国境を越えて存在する上に、国や組織によって異なる事情を抱えています。本分野に限りませんが、こうした政策課題への対処法には始めから正解はなく、やり方次第で中身も効果も変わるので、苦労がそのままやりがいにつながるのだと思います。様々な人と議論をし、人と人をつなげ、新しいアイデアを取り入れていくといった過程を経ながら少しずつ取組を前進させていくことが必要であると感じています。
OECDでの委員会の様子