OECD邦人職員の声:宮迫純 人事部戦略ビジネス分析グループ長

令和元年11月22日

2015年2月

Lecture_at_the_leadershipweek_at_the_OECD Mr.miyasako

OECDリーダーシップ強化セミナーでの講義

質問1. 国際機関で勤務することになった理由、OECDへの転職を決断された経緯を教えていただけますか。

 もともとは海外で経済学を習って研究者になりたいと思っていました。ただ、勉強を続けていく中でむしろ実務、特に組織管理の分野に興味がわいてきましたのでビジネススクールで金融と管理学を専攻しました。就職活動時には民間にも給与面から惹かれましたが、国際色が豊かな環境が好きだったのと、ビジネススクール出身者が割と少なく自分の能力や学歴が差別化しやすく、またキャリアアップの可能性が有望に思えたことから国際機関に就職することにしました。


3年間ニューヨークとコペンハーゲンの国連機関で財務と組織改革関連の業務に従事しました。1年でJPOから正規職員に昇進させてもらった上に、組織全体の財務状況を評価し、新たな戦略を作るというかなり大きなプロジェクトの主要メンバーの一人として参加させてもらい、大変有意義な経験でした。ちょうど現在の上司のOECDの人事部長とは、この時期に仕事を一緒にしていたことがあり、この上司がOECDに転職したときに誘われたことがきっかけで移ってきました。パリに住んでみたかったということも正直あります。

質問2. OECD人事部でどのような仕事をされているのですか。

 人事部は3つのグループから構成されており、私は人事戦略に関連した業務を担当しているグループの責任者です。12人の職員が私の直属の部下で国籍の構成はアメリカ、オーストラリア、ギリシャ、ドイツ、日本、ニュージーランド、フィンランド、フランスとベルギーになります。国籍はさまざまですが基本的には国際機関で働きたいと思っている人間の集まりですので、それほど国籍による性格の違いなどは気になりません。むしろ部下の年齢が23歳から64歳までとかなり幅が広く世代間の違いのほうがマネジメントという面では気になります。


 主な仕事はOECDの職員に将来に必要とされる人材やスキルを予測してそれらを効率的に組織に供給していくプロセスやルールを作り、その成果を数値化して分析することです。採用プロセスや業務評価やトレーニング等の枠組み作りに加えて、ITシステムのデザインや理事会への報告書などもチームで担当しています。また、年に10回から12回ほど加盟国の大学や官庁等を訪問し、OECDでのキャリアについてのプレゼンテーションなども行ってリクル-トも行います。さらに最近ではOECD内部の職員だけでなく、他の国際機関や各国政府の職員の方たちにもビジネススクールと共同で作ったトレーニングプログラムを提供するようになりました。

Presentation_at_the_careerfair_in__Seoul

ソウル大学のキャリアフェアにて

質問3. 仕事でご苦労されている点は何ですか。

 一番苦労していることは、これはやりがいでもあるのですが、人事部に所属している職員のスキルを向上させて組織管理の効率化により能動的に貢献してもらうようにすることです。


 私がOECDに着任した時は人事部の業務といえば書類を回すことと、問題が起きたときの事後処理が中心でしたので、積極的に組織の運営に影響を及ぼそうという意思があまり強くありませんでした。簡単に言えばOECDの組織としての方向性と人事部の実際の業務との間に相当ズレがあったことになります。私がOECDに来て7年目になりますが、この7年間に人事部全体が組織改編されて、また20人近い職員が新規採用されて、ようやく最近は人事部の体制強化の成果が実感できるようになってきました。しかしながら、まだまだ自分が理想とするレベルには到達していません。


 人事の仕事そのものとしては人材発掘が最も苦労する点です。OECDの場合は採用の対象となる主な職員はフランス国外に居住していて既に職務経験のある者ということになりますが、優秀な人材でパリに引っ越せる候補者となると、実はそれほど豊富にいるわけではありません。特に管理職層となると女性の遠距離からの応募者の数が目立って少なくなるのですが、これは人材の多様性を目指すという面では大きな課題になります。

質問4. これまで、採用側から、OECDに応募する日本人、昇進を目指す日本人職員と接してこられてきましたが、他国と比して、日本人にはどのような特徴がありますか。良い点、改善すべき点は何でしょうか。

 日本人のOECDへの応募者の数は少ないのは(34のOECD加盟国中15番目) 問題ですが、選考プロセスにおいて日本人の応募者はOECD加盟国の平均よりも良い採用実績を上げていますので、応募者の質そのものは比較的高いはずです。


 人事部の人間がこういうことを言ってはいけないのかもしれませんが、採用試験においてける面接試験の結果というのはそれほど将来の業績を予測するのに役立ちません。だからといって面接の内容が悪いと採用にはつながりませんので、OECDに応募する場合にはよほど自信のある場合を除き面接に特化した準備をすることは重要だと思います。この点は、外部からの応募者はなおさらです。日本人応募者にもう少し頑張ってほしいなと思うところは、集団での会話を自分のペースに素早く持ち込む能力です。採用側からすると、面接試験への対応だけが非常に優れた応募者を採用してしまい、後で苦労してしまうことも稀にありますが、日本人でそのようなケースは記憶にありません。

Mrmiyasako à la réunion

質問5. OECDはどのような人材を必要としていますか。どのような点に留意して選考を行っておられますか。また、どのような人材が昇進できるのでしょうか。

 事務補助等の業種を除いてどの職種も専門分野の知識と経験が求められます。つまり内部で育てていくというよりも採用した初日から使える人材を中途で必要に応じて採用していくのが主な方向性です。 ただ、実は私は人材の多様性を図るという目的とコスト面の問題から、この方針は国際機関が変えるべきことの一つだと考えています。中途採用の年齢やキャリアで海外に引っ越せる方々(OECDの場合は特にEU外から)はそれほどいるわけではないですし、そのような方たちを採用するために必要な給与は決して安くはありません。具体的にいうともう少し新卒採用を増やしたほうが良いと思いますね。


 最近よく言われることですが、専門知識や経験以外ではソフトスキル、特にコミュニケーションとチームワークの能力が採用においても昇進においてもますます重要になっています。この流れを踏まえて3年ほど前にOECDコンピテンシーフレームワーク(http://www.oecd.org/careers/Competency%20framework_booklet.pdf)という組織横断的に必要とされる資質に関する指標を作り、この内容に基づいた勤務評価や採用審査が行われるようになりました。


 私の意見では、語学面を除いて、OECDと他の組織で昇進される方たちの特性にそれほどの違いはないと思います。つまり個人の能力面だけで見た場合に、OECDで昇進される方たちはおそらくどこの組織でもやはり昇進していくと思います。組織での昇進はむしろそれ以外の状況、例えば自分が所属している部局の伸び具合ですとかの影響のほうが強いと思います。


 昇進できる人に関してどの場合でも例外なく当てはまるのが、直属の上司によく評価され、なおかつその人が組織内で部下を引き上げる政治力があることです。そのような上司に恵まれた場合には積極的に働きかけてキャリアの出来るだけ早い段階で認めてもらうことが肝心だと思います。

質問6. 人事の仕事は面白いですか。

 組織管理の観点から人的資源をいかに効率的に運用していけるかを課題として掲げて仕事に取り組めるのであれば非常に面白いですし、また改善できる分野がたくさんあるのでやりがいもあります。現在OECD人事部では、私が通ったビジネススクールの教授でこの分野における世界的権威の一人であるウオートンスクールのPeter Cappelli教授にOECDの人事制度改革のアドバイザーになっていただいて、採用方法や人材育成や業務評価や報酬制度など、人的資源の需要と供給に影響を与える分野全般において、理論と分析に基づいたアプローチを実践的かつ実験的に運営させてもらっています。これは私のアイデアとネットワークで始めたものなのですが、知的好奇心と達成感が両立でき非常に感謝しています。こういった新しい取組みを歓迎してくれるいい上司に恵まれたのと、ちょうどOECDにおいてこのような仕事が求められる時期だったということで運が良かったと思います。通常の国際機関における大部分の人事業務はプロセス上の決まりごとを遂行することなので、個人的にはあまり面白くないかも知れません。

Teammeeting

チーム内のミーティング

質問7. OECDで人事に携られて、世界の企業や日本の組織の人事やマネジメントを、どう見ておられますか。 

 仕事の一環として欧米を中心とした会社や組織の人事政策を観察してきましたが、程度の差こそあれ、いかに将来の不確実性に対応していくかということが共通の課題ではないでしょうか。組織内部で人材を育てていくのが長期的な視点では効率が良いという結果がリサーチ等で証明されていますが、将来の不確実性が内部の人材に投資しにくい環境を作っています。結果として、中途採用や非正規雇用に頼る傾向がOECDでも強くなってきており、特に若い人たちの間で人材育成の機会が限られてきているのが気がかりです。

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シャトーヌフデュパプにて樽で熟成中のワインを試飲

質問8. 休日はどのように過ごされていますか。

 普段の週末は掃除洗濯と日常品の買い物にほとんど時間をとられてしまいます。日曜日はよく友人宅の夕食に招待されます。国際機関の良いところのひとつに長期休暇がとりやすい職場環境があります。私も毎年冬は2週間ほどスキーを楽しむためにアルプスに行き、春にはワインテイスティングのために南仏(ローヌ地方)に1週間ほど行っています。私はあまり長い夏休みは取りませんが、大部分の同僚は大体3週間ほど7月から8月にかけて休暇をとっています。

質問9. OECDでの勤務を検討している学生やミッドキャリアにメッセージをお願いします。

 300の求人に対して4万人もの応募者が集まるというのがOECDの例年の採用状況です。今の仕事を通じてOECDでぜひとも働きたいというたくさんの方々に会うことが出来て大変嬉しいと感じる一方、職員数が約3000人という決して大きくはない組織ですのでどうしても機会は限られてしまいます。ですから、OECDだけを目指すというのではなく、どの分野でも重宝される知識と経験を身に付けてほしいと思います。具体的にいうと、自分からアクティブに情報を分かりやすく発信できる力、そして複数の意見を短時間(ミーティングが終わるまで)にまとめて自分の言葉で表現できる力でしょうか。これらの能力は語学力とはまた異なるものです。


 OECDの特徴のひとつは、これだけのサイズの国際機関でありながら地域事務所への転勤がないことです。その意味では長期にわたって落ち着いてキャリアを積んでいける恵まれた組織ではないでしょうか。組織の文化という意味では、イギリスとアメリカが職員数では2番目と3番目であるものの、アングロサクソンというよりはむしろヨーロッパ大陸の影響が強い組織だなと感じます。今の事務総長になって組織規模も20%以上大きくなり、OECDの仕事もより注目されてきていると思います。そういった意味で、伸びている組織だなというのは最近良く感じます。