OECD邦人職員の声:伊藤明日香 OECDグローバル関係局東南アジア課 ジュニア政策分析官(JPO派遣)

2019/11/22

2018年11月

(写真)伊藤明日香 OECDグローバル関係局東南アジア課 ジュニア政策分析官(JPO派遣)

質問1. 現在の任務を教えて下さい。

    グローバル関係局は、世界中のOECD非加盟国との関係強化を担う部局です。現在私は、東南アジア地域の10か国(インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス)とOECDの間の橋渡し役を担っています。これらの国々は、現在OECD加盟国ではありませんが、新興国の台頭やグローバル化の進展の中、OECDが国際経済の発展という活動目的を達成するためには、加盟国だけでなく非加盟国との協力関係も強化していくことが益々重要になってきています。

質問2. 具体的にはどのような仕事をされているのですか。

    私は主に3つの種類の仕事を担当しています。一つ目はOECD東南アジア地域プログラム全体のサポートで、国際会議等の企画・運営、事務総長や局長に対する資料や発言要領の作成・ブリーフィング、プログラムのステークホルダーとの連携等を支援しています。現在の東南アジア地域プログラム運営グループの議長国(韓国・タイ)とOECDとのコミュニケーションを手助けし、プログラム向上に向けた助言を行うなどして、プログラムを戦略的に活用できるようにしています。また、ニュースレターを立ち上げるなど、OECD内外関係者に同プログラムの活動を知ってもらうよう広報活動の強化にも努めています。

    二つ目は、プロジェクト開発です。プロジェクト開発とは、(1)ASEANが定めている目標や戦略、(2)ASEAN各国政府及びOECD加盟国からのニーズ、(3)地域内で活動する他の国際機関や各国援助機関の現在の活動状況、(4)OECDの専門性や強みを考慮した上で、ASEAN経済統合、または国内改革を実現するために必要な政策レベルでのプロジェクトを、それぞれのテーマを担当するOECD内の部局や他の国際機関、ASEAN各国と協力して開発していくことです。これらのプロジェクトでは、ドナーが決まれば、プロジェクトを実施する上で必要となる調査・分析、プロジェクトの目標の進捗確認、予算管理、対外関係の管理等が発生します。

    三つ目は、東南アジア地域プログラム内の全ての活動分野(中小企業開発、教育など)に男女平等の視点を横断的に取り入れる活動です。2018年9月にパリで開催された東南アジア地域プログラムの中間運営会議では、OECD各局がジェンダーというテーマに関しどのような活動を行っており、発展の可能性があるのかについてヒアリングし、文書として取り纏めて発表しました。東南アジア各国で先進的に取り組まれているジェンダー事例をOECD加盟国に紹介することも私達の務めだと思っています。

質問3. 仕事を進めていく上でのやり甲斐、また大切にされていることは何ですか?

    東南アジア地域は経済成長著しく、中国の台頭を前に、国際ルールに基づいた外交が日々求められています。自国優先主義の国が増えている中、OECDという多国間協調の外交の枠組みをうまく活用しながら、東南アジアの発展に寄与することは、ダイナミックで大きなやり甲斐を感じる仕事です。また、少子高齢化で日本の国内市場の先細りが懸念されて久しく、東南アジアの知的労働力に頼り始めている日本にとっても、大変重要な地域であると思っています。

    ASEAN10か国、と一口に言っても国によってその状況は様々です。ASEAN事務局や、各国政府が抱える課題、ニーズを注意深くヒアリングし、それらのニーズを基に、OECD内の各部局が行っているリサーチ状況や現行プロジェクトといかに相乗効果を生み出せるのかについて、所属課内で議論しています。また、日本に代表されるOECD主要加盟国が経済発展の過程で蓄積してきた知見(成功事例であれ教訓であれ)をASEAN諸国に共有することはできないかと考えています。

    真に東南アジア地域のニーズに即したプロジェクト開発を行うには、ASEAN諸国の政策立案者やOECD内各部局のスタッフとの日頃の信頼関係構築が何よりも大切だと考えています。OECDの職員は皆、何らかの分野の専門家集団であり、組織内ですぐに色々な分野からの専門的な見解が得られる環境は、大変恵まれていると感じており、勉強の毎日です。

(写真)職場の上司と

質問4. 仕事上で日本政府とどのような接点がありますか。

    日本は、議長国を務めた2014年のOECD閣僚理事会において、安倍総理の参加のもと東南アジア各国の閣僚とともに公式にOECD東南アジア地域プログラムの立上げを宣言しました。立ち上げ後の2015年3月から3年間、当プログラムの共同議長国を務めるなど日本政府には、非常にアクティブな役割を果たしていただいています。また,プログラムがカバーする投資・規制改革・貿易・中小企業政策など、多岐にわたる専門分野において大きな貢献をしていただいております。さらに今年2018年3月(於:東京)の東南アジア地域プログラム閣僚会合には河野外務大臣が参加され、強くコミットしていただいています。

質問5. 仕事上苦労されている点は何ですか?

    コミュニケーションの方法の違いです。国籍も専門性も異なるバックグラウンドを持つ専門家集団を巻き込んでプロジェクトを作っていくには、強い問題意識と、それを根気強く伝え、説得し、周りを巻き込んでいく力が求められます。

    日本の組織のようなきっちりとした情報共有文化は基本的にはありません。それぞれが自主性を持って提案し、意見をぶつけ合い、議論する風潮があります。こうした風潮をうまく渡り歩くには、ある程度ずるくなることも必要かもしれませんし、特に日本人スタッフ同士の連携は必須だと思います。不当に文句をつけられた時には、自分の立場をしっかりと議論で守っていくこと、また味方をできるだけ多く常日頃から作っておくことも大切です。必要な情報をとりにいく積極性も求められます。

    OECDスタッフの契約期間はそれぞれですが、皆が切磋琢磨をしながら面白いプロジェクトの獲得に励んでいるポジティブな「競争」状況にあると言えると思います。そのため自分のプロジェクトを常にアピールしていく必要があり、それがやり甲斐とも言えます。同時に任期中に空席ポストを常にチェックし、次のポスト獲得に向けて努力し続けることが必要です。その点、JPO制度が与えて下さる2年間という期間は、スタッフの契約期間の中でもかなり長い方で、スポンサーになって下さっている日本政府には、感謝しかありません。

質問6. 厳しい状況の中、何故このフィールドで働き続けたいと思うのでしょうか。どこにモチベーションがおありなのですか?

    大学在学中に留学したメキシコでの現場体験があるからです。留学中に行っていたハリスコ州立女性支援機関でのインターンシップ、また貧困地域でのボランティア活動で実際に目にした貧困の状況、男女差別の状況には打ちのめされるものがありました。メキシコは1994年にNAFTA(北米自由貿易協定)を締結し、自由貿易をすることによってメキシコが豊かになる、という考えが、経済学の主流でした。しかしながら、自由貿易の波に晒され、試行錯誤するメキシコ農業の現場で、自由貿易政策によって受ける恩恵、また課題を政策立案者がより深く広く分析し、事前に対策を打つことの重要性を学びました。これらの実体験があるので、アンヘル・グリアOECD事務総長が打ち出している「包摂的成長(inclusive growth)」という概念の根底と響きあうものを感じています。

質問7. ご自身の強みはどこにあると思われますか。

    OECDは専門家集団であるため、博士号を持つ学者タイプの職員が多いです。これに対し、私は現在博士号は持っておりませんが、これまでの職務経験が強みになり得ると感じています。南米の政府機関に勤務していた経験から、途上国の政府が抱えている課題も具体的に理解できるという強みがあります。また、経済に関する政策提言は、政府機関のみを対象にしているわけではありません。OECDでは現在、「責任ある企業行動」に関する活発な議論が繰り広げられていますが、多国籍企業(自動車業界、投資ファンド)での職務経験から、民間企業がどのように意思決定していくのかを理解していることは重要であると思っています。

質問8. 将来はどのような仕事に携わりたいとお考えですか。

    JPO任期が終わっても、OECDに残り、特に持続可能な環境プロジェクトに携わりたいと考えています。この地球上に存在する生態系には様々な生物がお互いに支えあって生活しており、国が経済発展をしていく過程の中で、その土地が昔から持っている生物多様性、また文化との共存を考える必要があります。例えば、農地を改良して工場や倉庫などの開発に使用する場合、その生物同士の密接な繋がりを破壊してしまう可能性や、地域社会の繋がりを弱体化させてしまう可能性など、これまでの職務経験でそのような事例を数多く見てきました。OECDの専門性を結集するからこそ実現できるプロジェクトの開発を目指しています。

質問9. 国際機関への就職、JPOを目指す方々にアドバイスをお願いします。

    国際機関で働くには、確かに、専門性、言語能力が必須です。しかし、何よりも、問題意識を共有し、より良い政策を作りたいという思いがプロジェクトを生み出します。机上の勉強だけでなく、この人と一緒に働きたい、または、この人についていきたい、そう関係者の方々に思ってもらえる人間性が、より重要である気がします。その点は、国際機関でも民間企業でもどこでもあまり大差がないかもしれません。先程申し上げたように、各国の若者たちは、OECDで働くポスト獲得に向け、全力で向かってきます。JPOという恵まれた制度を是非フル活用し、一人でも多くのやる気溢れる日本人の方が来て下さるのを期待しています。