OECD邦人職員の声:表 将幸 OECD公共ガバナンス局 公的清廉部 公共調達課 ジュニア分析官(JPO派遣)

2018/12/17

2018年11月

(写真)表 将幸 OECD公共ガバナンス局 公的清廉部 公共調達課 ジュニア分析官(JPO派遣)

質問1.表さんのご専門である、公共調達(public procurement)の役割について教えてください。

    私の専門は公共ガバナンス(政府の行政能力)で、特に、政府の財政に関わる公共財管理(予算制度、税制度、会計制度、監査制度など様々です。)の中の公共調達、公共投資、地方財政(収支分析や政府間財政移転制度)などにこれまでかかわってきました。現在、OECDでは公共調達制度分析を担当しています。官公庁は、我々が納めている税金を使って、公共の建物を建設したり、物資を調達したりする際、主に民間の会社と契約を結んでいます。そして一定の基準(threshhold 閾値と呼ばれています。)以上の価格又は規模の事業の場合には原則として入札をしています。それを公共調達(又は政府調達)と呼んでいます。公共調達は公平性、透明性、迅速性、効率性などを確保するため、関心のある業者は誰でも参加できる競争入札を原則としなければいけません。

    公共調達をする際、契約に至るまでには、1.入札までの準備段階(調達対象物の市場調査や調達上の入札条件確定等)、2.入札段階(業者への入札布告、入札評価や落札業者決定作業等)、3.契約管理段階(契約後から完了までの進ちょく管理、修正契約、支払い手続等)の3つのプロセスを得ることになります。実際に公共調達を行うためにはこの3本の柱が大変重要です。入札を行う際には、準備段階で入札に関する情報を含んだ「入札図書」を準備します。

質問2.«入札図書»についてもう少し詳しくご説明ください。

    入札図書とは、その事業が遂行されるに当たって満たすべき基準が細かく列記されており、最善なオファーを提示した業者が落札業者として選定されるための大変重要な書類です。道路工事の施工業者を例にとりますと、入札図書上には工費が廉価である、ということだけでなく、マネンジメント体制がしっかりしているか、工事の監督者には経験豊かな人間が雇われているか、工期については適切な期間で終了するように設定しているか、安全管理は万全か、使用するアスファルトの質は基準を満たしているものを使用しているかなど、記入する項目は多岐に渡ります。入札図書に書かれている内容を念頭に各応札者がプロポーザル(価格や技術仕様等)を準備し、入札図書に記された評価基準に基づきプロポーザルが評価され、最終的な落札者が決定します。

質問3.public procurementで実際に国家が調達するものについては具体的にどんなものがありますか?

    調達カテゴリーは大きく物資(goods)、役務(service)、工事(works)に大きく分類され、public procurement(公共調達)のpublicは中央政府のみでなく、地方政府や公益法人も含みます。例えば、国立病院を例にとると、病院の建物という規模の大きいものから、医療機器、薬物、針などの医療器具、病院内の清掃サービス契約など多岐に渡ります。また、対象には、防衛省の軍事品という国家機密事項に係るものも含みます。

    公共調達は、OECD諸国GDPの12%(メキシコ5.1%~オランダ20.2%)、EU諸国GDPの14%と経済上のインパクトが非常に大きい政府活動です。また、同時に、腐敗・汚職に最も脆弱な政府活動とされています。昨今では、公共調達の占める経済規模から、Strategic Procurement(戦略的調達)の主流化が欧州を中心として公共調達における主要課題となっています。Strategic Procurementとは、従来のように物資をただ調達(これを調達のPrimary objectiveと呼んでいます。)するのみでなく、政府の他の政策を推進する手段として公共調達を活用(これを調達のSecondary objectiveと呼んでいます)することを指します。具体的には、環境、中小企業支援、イノベーション推進、社会的責任などの政策が対象となっています。例えば、環境政策推進のために環境に優しい商品を積極的に購入する、多くの国で全企業の99%を占める中小企業がより入札に参加できるように契約単位(ロット)を分割する、社会的責任の一環でILO協定(児童労働禁止、雇用貴下の平等等)を遵守する企業のみ入札に参加できるようにしたり、契約後の生産段階でのモニタリング(労働搾取が行われていないか等)を契約上の条件とするなど、様々なアプローチがあります。

(写真)オフィスにて

質問4.表さんが当分野に興味をもたれ、ご専門にしようと思われたのには何かきっかけがありましたか?

    小学生の頃から南米、特にペルーに興味があり、大学もスペイン語学科に入学しました。大学3年の時にペルーに滞在した折、貧困、インフラの脆弱性、犯罪など日本で生活するのとは全く異なる状況に遭遇しました。また、日本へ帰国した翌日にアメリカで同時多発テロ事件が発生し、その原因は世界が抱える貧困などの問題が原因ではないのかと考え、国際協力に強い関心をいだくようになりました。

    大学卒業後は8年間、外務省やJICAが実施するODA(政府開発援助)の調達・案件監理業務を担当する調達代理機関で働きました。質の高い国際協力を実現するために、開発途上国の政府が必要としている資機材やサービス(輸送・設計・施工など)の調達業務を途上国政府に代わって実施している機関でした。 その8年間はアフガニスタンやボリビアに長期滞在するなど貴重な経験をいただき、この経験は今振り返ってもその後の仕事の基礎を作ってくれるものでした。途上国政府と仕事をする中で、政府の行政能力(特に財政分野)が案件実施に影響を与える事態に多々遭遇したので、ガバナンス、特に公共調達を含む公共財政管理の政策分析・提言業務に興味を持ちました。

質問5.OECDの公共ガバナンス局公共調達課の役割について教えてください。

    私の所属するOECDの公共ガバナンス局公共調達課では、公共調達制度に関する以下の業務を管轄しています。


  • 1か国又は地域に焦点を当てた公共調達政策分析・提言(例えば、ドイツの公共調達制度の多角的分析、マルタの公共調達手続簡略化に係る分析、リトアニアにおける調達業務の専門業務化に係る資格制度構築や調達能力向上研修等)

    私は現在、上記にあげたリトアニア及びマルタ案件に加えて、コスタリカの公共入札競争阻害要因分析案件を担当しています。

質問6.JPOとして OECDで働こうと思ったきっかけについてお聞かせください。

    私が専門としているガバナンス(特に公共財政分野)に取り組む国際機関は、UNDP(国連開発計画)、世界銀行、地域開発銀行(アジア開発銀行、米州開発銀行等)、OECDなど限定的です。JPO派遣のあるUNDPとOECDをガバナンス業務で比較した場合、OECDのほうがより幅広く公共調達を含む公共財政分野に取り組んでいる印象を受けました。世界銀行は米国大学院留学時にインターン、米州開発はコンサルタントとしてガバナンス分野で働く機会がありましたが、政策分析に重点を置くOECDで働くのはとてもいい経験だと思いました。米国大学院留学時にはガバナンス関連のOECD出版物を参照しながら勉強することが多かったのですが、OECD事務局職員で仕事をすれば、政策分析や提言を行うという私に欠けていた経験を積むには大変有効だと思いました。そして、OECDはラテンアメリカとの連携強化に取り組んでおり、ペルーもスペインからの独立200年にあたる2021年までの加盟に興味を示しています。その意味でもこの時期にOECDで働くのはとても興味深いと考えました。

質問7.OECDでpublic procurement(公共調達)をご担当されて一番面白いと感じるのはどんなことですか?

    public procurement(公共調達)に限ったことではありませんが、政府の改革のお手伝いができることです。OECDで決定することには拘束力がなく、あくまで提言にとどまりますが、それでもOECDの報告書の内容が政府の改革に実際に取り入れられることは多く、とても嬉しいことだと思っています。今まで関わったコスタリカ、マルタ、リトアニア、いずれもOECDの政策分析が行政改革案に使用される予定です。調達代理機関 での8年間は調達のオペレーションに関わるのが主な仕事でしたが、現在は、各国の調達制度の分析をするなど、問題を国家レベルで見ることに大きな喜びとやりがいを感じています。

    また、各国のハイレベルの政策担当者と直接意見交換できるのもとても魅力的だと思います。私はまだまだ若手の部類ですが、それでも10月末に行われた年間フォーラム「Procurement Week」をきっかけに、ペルーの調達庁(El Organismo Supervisor de las Contrataciones del Estado:OSCE)の総裁と直接メールがやりとりできるようになるなど、とても恵まれた環境にあると言えます。

(写真)表 将幸 OECD公共ガバナンス局 公的清廉部 公共調達課 ジュニア分析官(JPO派遣)

質問8.毎日のお仕事の中で、困難を感じている事柄はありますか、それはどんなことですか?

    職員間において、日本のような以心伝心が通じないことから、それを頻繁なコミュニ ケーションで埋めるようにしています。ただ、私の現在の部署では、各職員にかなりの裁量を与えてくれるので、とても仕事がしやすい環境と言えます。英語以外にも他言語を話すことができたら仕事の幅が広がります。私の上司はポルトガル人なので、普段はポルトガル語と似ているスペイン語で会議をし、メールは他の職員と情報共有をするため英語で行なっています。私のユニットでは、当然英語は全員できますし、フランス語はほぼ全員、スペイン語は半数がビジネスレベルです。現在、アルジェリアで大きな案件があるのですが、この案件を主導するのは当然フランス語かアラビア語が堪能な職員になります。

    また、当然外国語ができるだけでは不十分で、会議やプレゼンテーションで自分の意見を論理的かつ明快にはっきりと表明でき、また、論理的に分析報告書を書ける能力は不可欠だと思います。私のユニットに限らず、OECDは各分野の政府担当官と仕事をするものなので、当然その分野での高い知識とそれをその分野の専門家と討議し、共に政策協議できる能力が必要だと思います。

質問9.2年間のJPOの任務を完了された後、いままでのご経験を生かしてどのようなお仕事をなさりたいですか?将来的なビジョンをお聞かせください。

    今までの経験・知識を知識を生かすために、引き続き公共ガバナンス分野に関わっていきたいと思っています。OECDに来る前はペルーで仕事をしていたこともありますし、私の大好きなラテンアメリカに関わる仕事に従事できたらと思っています。