OECDは何でも屋
2021年2月
OECD日本政府代表部大使
岡村 善文

世界にたくさんある国際機関は、大きく二つに分類できます。ひとつは、ある特定の分野についての協力を目的としてつくられたもの。たとえば今コロナ問題で前面に立っているWHO(世界保健機構)は健康や医療の問題で国際協力を図る機関です。パリに本部のあるUNESCOは、教育・科学・文化分野の国際協力を扱っています。ほかにも、貿易についてはWTO(世界貿易機関)、核不拡散や原子力についてはIAEA(国際原子力機関)など。それぞれ専門に扱う分野が決まっています。もうひとつの分類は、ある特定の国々が集まっていること自体に意義があるもの。たとえばNATO(北大西洋条約機構)は旧ソ連圏からの軍事的脅威から自らを防衛するために西側諸国が結成しました。ASEAN(東南アジア諸国連合)は東南アジア諸国が地域の発展を目的として活動しています。その意味から国連は、世界中のほぼすべての国が加盟していることが重要です。
OECDは後者にあたるでしょう。60年前の1961年、自由主義圏の経済発展を目的に20ヶ国の原加盟国により結成されました。当時は東西対立の只中で、欧米を中心に資本主義の諸国が集まって、共産圏に対抗して経済復興・発展を進める必要がありました。3年後に日本が原加盟国以外で初めて加入、さらに1971年には豪州も加わるなど欧米外にも拡大、今は世界全体で37ヶ国が集まる組織になっています。
その仕事を一言で言えば、自由主義経済の発展のための協力ということになりますが、活動を進めるといろいろな協力がたいへん有益だと分かってきます。各国とも、自国の経済・社会政策を仲間内で調整する必要がありましたし、さまざまな国内政策についての比較や意見交換が助けになりました。OECDにおいて先進国経済を率いる主要国が一致して約束事を決めれば、それは世界経済の運営の指針になりました。そういう背景から活動分野が拡大し、現在はおよそ国内行政にかかわる話はすべて扱うようになっています。OECDの組織図(委員会、事務局組織)を見れば、活動がいかに幅広い分野に及んでいるかが分かります。OECDは何をやっているところなの、と聞かれれば、答えは「何でも」です。貿易、財政・課税、経済企画、開発援助、環境保護、産業、デジタル、科学技術、教育、運輸、観光、労働、医療、行政管理、男女格差など、およそ何でもです。やらないのは外交・警察・防衛くらいかな。いやいや、外交については今の世界では経済問題が外交に直結します。OECDで扱う分野それぞれが、外交の最先端の舞台になっています。
そういうわけで、OECDが何でも屋なので、代表部にも日本の幅広い省庁から出向者が来ています。それぞれ所管の分野について、OECDに日本の考え方や立場を持ち込み、各国との間で政策調整を進めています。さまざまな委員会や作業部会などに、国内官庁から出張者や専門家が来て出席し、あるいは議長職を取ったりして、日本の貢献と活躍を支えています。その姿を見ると、代表部はまるで霞が関の縮図のようです。
日本は37ヶ国ある加盟国の1つなのか。いやいやその存在は大きい。運営経費の約1割を負担する第二の拠出国です。G7やG20のメンバーとして、世界への発言力があります。それだけではなく、ややもすれば欧米本位で物事を考えてしまうOECDの中で、アジアから別の立場や考え方を提起します。先進経済・社会が直面するような重要な問題に、日本は先んじて経験を有しています。公害や環境汚染、石油危機、バブル崩壊、大規模災害、さらには少子高齢化など、その対策に取り組んできました。こうした経験から得た日本の知恵を、他のOECD諸国と分かち合い、いっしょに考えていく。それがOECDへの日本の大きな貢献です。