ロシアのウクライナ侵略:OECDの対応

令和4年3月9日

2022年3月
OECD日本政府代表部大使
岡村 善文


(写真)岡村 善文 OECD日本政府代表部大使

2月24日、ロシアがウクライナに侵略を開始し、世界を震撼させました。OECDはその日ちょうど月例の理事会の開催日にあたっており、審議の冒頭これを受けてOECDとしてどう対応するかの協議に入りました。


協議の結果、ロシアの大規模な侵略は「明確な国際法違反であり、ルールに基づく国際秩序に対する深刻な脅威であり、最も強い言葉でこれを非難する」との声明別ウィンドウで開くを採択しました。声明ではさらに、「ウクライナ国民に連帯して寄り添う」とし、緊急課題として「ロシアとの全ての協力を再考し、経済的・社会的な影響を評価しているところである」と加えました。


さらに翌25日、引き続いて理事会を開催し、OECDとしての初期措置について決定の上、以下のような内容について 、事務総長声明別ウィンドウで開くとして発表しました。


(1)ロシアとの加盟審査プロセスを正式に終了する。
(2)事務総長がモスクワ事務所を閉鎖するために行動を取ることを求める。
(3)閣僚級および招待国として参加する機関における、ロシアに対する全ての招待を停止する。
(4)事務総長はロシアとの間で任意拠出金に関する新たな合意を締結しない。ロシアからの任意拠出金によって賄われ、まだ開始していないプロジェクトを停止するために必要な手段を取る。
(5)OECD の対外関係委員会に、ロシアの各委員会への参加を見直すよう要請する。
(6)OECDは引き続きウクライナ国民と強い連帯感をもって寄り添う。
(7)民主的に選出されたウクライナ政府へのOECDの支援を強化する。


同時に、ロシアとのすべての協力を再検討し、民主的に選出されたウクライナ政府に対するOECDの支援を強化するための更なる方策を、今後数日から数週間の間に策定するとされました。


ロシアはOECDの加盟国ではありません。しかし、ロシアは1996年に加盟申請を行い、いくつかの委員会に参加、OECDのルールやスタンダードにも加入しています。2007年から開始された加盟審査プロセスは、2014年のクリミア「併合」を受けて凍結されていました。今回の決定で、この「凍結」は「正式に終了」となったわけです。


世界中で多くの国際機関が、ロシアによるウクライナ侵略を受けて、対応を協議しているはずですけれども、抗議の声明を具体的な措置とともに発表した国際機関は、おそらくOECDがNATOやEUに次いで最初のほうでしょう。それが可能であったのは、たまたま侵略の当日に理事会が開かれていた偶然もありますが、何よりOECDの加盟国にはロシアが入っておらず、共通の立場で対応できる数少ない国際機関であったからです。


まさにOECDの重要性は、ここにあります。自由や民主主義、ルールに基づく国際秩序などの理念のもとに、いざという時には迅速に一致団結できる国際機関なのです。また、戦争による経済・社会の混乱や、順次発動される経済制裁措置は、これから世界の経済秩序に大きな影響を与えるでしょう。そうした世界の動きについて、経済・社会の研究機関として、また、各国政府の政策調整機関として、OECDは大きな役割を果たすことになるはずです。