ロシアのウクライナ侵略:IEAの対応
2022年3月
OECD日本政府代表部大使
岡村 善文

ロシアによるウクライナ侵略を受けて、各国が協調して経済制裁を打ち出しました。今後ロシアへの輸出入や金融取引がかなり遮断されることになります。
ロシアは面積1710万㎢を有する世界最大の国です。米国と中国はほぼ同じ国土面積(約960万㎢)のところ、ロシアはそれぞれの1.8倍弱です。しかし人口となると約1億4600万人で、日本より少し多い程度、米国(約3億3300万人)の半分以下です。経済規模は意外に小さくて、国内総生産は日本の3分の1程度、日本のみならずG7のどの国よりも少ない。一方で、貿易依存度が高い(対GDP比約40%)ので、経済制裁によって貿易が縮小するならば、かなりロシア経済に影響が出るでしょう。
ロシアの対外輸出先(2019年)を調べると分かります。最大の輸出相手国は中国(全輸出の13.4%)ですが、オランダ(10.5%)、ドイツ(6.6%)と続き、ベラルーシ(5.1%)をはさんで、トルコ(5.0%)、韓国(3.8%)、イタリア(3.4%)とOECD諸国が主要輸出先になっています。OECD諸国への輸出額総和は、全体の約6割にのぼります。対外輸出により外貨準備が維持できるわけだから、経済制裁によりOECD諸国への輸出に支障が出るとロシアはかなり困るはずです。
ところがこのロシアからの輸出、半分以上が石油・天然ガスです(全輸出額の約52%)。ロシアは、原油生産において世界第三位(12.1%、米国、サウジアラビアに次ぐ)、天然ガス生産において世界第二位(16.6%、米国に次ぐ)なのです。OECD諸国はロシアのエネルギー資源にかなり依存しており、石油についてみれば、OECD諸国全体の石油輸入の26%がロシアからです。OECDの欧州諸国に限れば、34%の石油をロシアから輸入しています。経済制裁等により、これらロシアからのエネルギー資源供給に支障が出るならば、OECD諸国、特に欧州諸国の側にも大きな影響が出かねません。
こうしたエネルギー需給の問題に、エネルギー消費国側から対処するために、国際エネルギー機関(IEA)が置かれています。今回の事態を受けて、IEAはただちに対応を開始しました。原油価格は、コロナ禍後の消費拡大のために、ロシアのウクライナ侵略の前からすでに高騰していました。経済制裁が発動された後、市場が反応してさらに原油価格が上昇し、半年前まで1バレルあたり70ドル前後だったものが、一時140ドルに迫り、現在も100ドルを超える高値を付けています。
IEAでは加盟各国に石油備蓄を義務付け、供給途絶などの緊急事態には備蓄から市場に放出することにより対応する体制をとっています。3月1日には、ロシアのウクライナ侵略がエネルギー供給に与える影響やIEAが市場安定化に向けて果たす役割を議論するため、臨時の閣僚会合が開かれました(ビデオ会議、日本からは萩生田経産大臣が出席)。この結果、6千万バレルの協調備蓄放出が決定されました。
さらに3月3日IEAは、欧州のロシア産天然ガス依存度を低減するための対策を公表しました。それによると、EU諸国のロシアからの天然ガス輸入量は約155bcm(十億㎥)のところ、対策を講じれば50bcm以上を引き下げることが可能である、ということです。そのための具体的施策として、天然ガスの代替輸入先の開拓、最低ガス貯蔵量の設定、風力・火力発電の加速化、バイオマス・原子力発電の出力最大化など提言しました。
このように、OECDやIEAは、今回の事態によりどのような経済的影響やエネルギー需給上の影響が生じるかを注視し、これからも対応策を検討し、政策提言を行っていくはずです。
(データは以下による)
世銀統計
IEA統計
BP世界エネルギー統計