着任のご挨拶「転機に直面するグローバル化世界とOECD(経済協力開発機構)」

このたびOECD日本政府代表部の特命全権大使として着任しました。
今から約40年前の1983年,私が外務省に入省し外交官1年生として最初に配属になったのが,OECD担当課でした(経済局国際機関二課)。冷戦の末期であった当時,OECDは主に,投資や貿易において,自由な市場の優位性を発信することを使命としていたような記憶があります。
その後冷戦が終了し,世界にはつかの間の平和が訪れるとともに,国際経済・社会のグローバリゼーションが急速に進みました。21世紀にはいってその5分の一が過ぎた現在,国際社会はグローバリゼーションの果実を種々味わうとともに,格差の問題や地球環境問題をはじめ,その負の側面にも直面しています。また,冷戦時代に戻ったとは言いませんが国際社会はdivisiveになりつつあるようにも思われます。すなわち,色々な意味でグローバル化は転機を迎えているのです。
今までのように,市場メカニズムに代表される経済・社会活動の自由化を維持し進めていくと同時に,それを人々,ひいては人類全体のwell-beingのために適切にマネージしていくことが一層求められるようになってきているのではないでしょうか。一見矢印が逆にも見える,この二つのミッションを整合的に達成しようとするには,国際社会における知恵の結集と,それを実行するための諸国の強い政治的イニシアティブと協力が必要となります。
OECDは,共通の価値の下で結束し(like minded),自由で公正な経済秩序の構築と強化に向けて集まった38カ国の集まりです。その事務局には2000人を超える様々な分野の専門家を擁しています。加盟各国と事務局が協力して,経済,財政,金融,貿易,開発といった幅広い分野において,政策提言,国際ルールや基準の策定に加え,相互審査などの仕組みを通じ,実践的な活動を行っています。また,OECDはキーパートナー国との連携等を通じて,非加盟国との協力や連携も進めています。
日本は1964年の加盟以来OECDの活動に積極的に参加してきました。現在も米国に次ぐ2番目の予算拠出国であるのに加え,最近では,デジタル経済,コーポレートガバナンス,農業,質の高いインフラ投資など,様々な分野での議論をリードしています。また,欧州の加盟国が多い中で,日本はOECDにアジアの視点をもたらす役割も果たしています。
折しも2023年に日本はG7の議長国を務めます。その翌年の2024年には日本は,OECD加盟60周年を迎えます。
What can the OECD do for the international community?
What can the OECD do for Japan?
and
What can Japan do for the OECD?
この三つの問いを常に自問しつつ,日本とOECDとの連携強化に向け,大使としての職責を果たしていく所存です。
2022年12月16日
OECD日本政府代表部特命全権大使
新美 潤(しんみ じゅん)