OECD邦人職員の声:横井眞美子 OECD金融企業局インフラ担当主任

令和7年4月4日
横井眞美子 Dr Mamiko Yokoi-Arai
筑波大学卒業後、新卒で日本銀行に入行。日本銀行勤務の傍ら筑波大学大学院の夜間コースに通い修士号を取得。その後、ロンドン大学博士課程に進み、博士号を取得(法学博士)。ロンドン大学、金融庁での勤務を経て、2008年からOECD金融企業局に勤務。

現在どういうお仕事をされていますか。

(写真)横井眞美子 OECD金融企業局インフラ担当主任

(写真提供:OECD)

OECD企業金融局で、3年ほど前からインフラのための資金調達・融資に係る政策提言に関わっており、特に民間資金調達をどのように行うのかについての政策提言が中心業務となっています。元々私の専門は金融市場なのですが、当時の局長から懇願されて異動し、インフラ部門の立て直しに携わることになりました。

具体的には、(1)民間セクターのインフラへの参画に関する原則についての理事会提言(2007年)の改正作業、(2)G20ファイナンス・トラックのインフラ作業部会に提出する提言書の執筆、(3)OECDにおけるインフラ関連業務を強化・連携させるためのハイレベルアプローチの実現のための企画・調整のリードに主に取り組んでいます。

 

 

OECDの仕事で、興味深かった業務や出来事について教えてください。

面白いと感じているのは、多国間で議論し、交渉し、妥結し、加盟国間での成果物を生み出していくプロセスです。OECDの場合は成果物は条約ではなく報告書等の場合が多いのですが、加盟国が合意できる文書にまとめ上げる過程は非常に興味深いものです。

 

昨年のG20に向けた報告書作成中のエピソードを紹介します。OECDでは現在理事会決定によりロシアに関する分析はできず、G20のメンバーであるロシアの事例を入れることができない状況にあったのですが、妥協案として「報告書に議長国アネックスという付属文書を付け、そこにロシアの事例を入れる」という案を提案し、議長国ブラジルやロシアからの納得を引き出したということがありました。

 

2018年にミャンマーのネピドーでラウンドテーブルを開催した際、バンコクで長時間の乗り継ぎの必要があったのですが、その際に同じ便でネピドーに向かっていたOECD幹部とホテルのプールの中で思いのほか話が弾み、それがきっかけで仲良くなったということもありました。

 

また、政策へのインパクトが大きかった仕事の一例としては、ラトビアが金融活動作業部会(FATF)でGrey listされるという危機にあった際(実際Grey listされると、国際金融市場での融資活動に実質的な影響が出ます)、OECDでマネーローンダリング対策のプロジェクトを立ち上げることになり、マネーローンダリング専門のコンサルタントを雇って、6か月ほどの間にラトビアを何度か訪問し、報告書にしたことがあります。その提言を下に、ラトビアの金融監督体制ががらりと変わったということがありました。そして、ラトビアはGrey listされずに済んだという非常に前向きな結果でした。

 

(写真)横井眞美子 OECD金融企業局インフラ担当主任

OECDに入ったきっかけを教えてください。

(写真)横井眞美子 OECD金融企業局インフラ担当主任
 

2006~2008年に金融庁で研究官として働いていたのですが、その際、OECDへの出向経験のあった幹部職員に勧められてOECD勤務に関心を持ちました。当時、新規加盟国の審査を行うことを想定した金融市場関係のポストの募集があり、応募したところ、忘れた頃に面接に呼ばれ、無事合格することができました。

 



 

すごいですね。国際機関への就職は狭き門なので、多くのポストを受ける方もいると聞きますが、応募したのは一つだけだったのでしょうか。

はい。就職活動は適材適所なので、マッチングがうまく行くかどうかというのが大きいと思います。私は、ちょうど自分の経歴にマッチしたポストの募集だったため一度の応募で合格しました。当時雇用を担当していた局次長と面談でウマがあったのも幸いだと思います。

 

ご自身の分野の専門性を深めることになったターニングポイントはありますか。

私の場合は金融市場・金融規制が専門です。新卒で日本銀行に入ったため、元々金融のバックグラウンドはあるのですが、更にそれを深めることになったのは、在職中に夜間の大学院の修士課程で勉強し、その後縁があってロンドン大学の博士課程に留学することになり、素晴らしい指導教官の下で研究を深め、ネットワーキングを行ったことが大きいと思います。学位を得るというのも重要ではあるのですが、その過程で周囲の人たちにサポートされ、アドバイスを受けて、キャリアを構築していくというのが大事なのかなと思います。

 

今は、投資や資金調達に関する政策案件を取り扱っていますが、インフラ案件も大きな金融取引に係る契約が元になっているものであり、これまでの知見を応用できる分野です。新聞を読んだり、マーケット関係者から話をきいたり、日頃から様々な情報を吸収できるよう、努力もしています。

 

私の場合は、奨学金をもらって高校生時代にシンガポールに留学して国際バカロレアをとっていたということもあり、その頃から多国籍な環境で働きたいという漠然とした思いはありましたが、必ずしも国際機関で働こうとは思っていませんでした。ただ、一貫してずっと公的な仕事をしたいとは思っていました。

 

OECDで働く魅力やメリットを教えてください。

グローバル化した社会においては、1つの国の力だけで政策を企画立案するのは困難です。現在の地政学的には多国間協力の求心力が下がっているとはいえ、複数の国で共に取り組んでいかなければ解決できない政策や事案が多いというのも現実だと思います。そのような意味で、OECDでは、様々な国が情報を共有し、議論できるのが魅力の一つだと思います。OECDの同僚たちは、お国柄、歴史的背景等は様々ですが、皆でお昼を食べたり、おしゃべりしたりして、共に働けるのは楽しいです。

 

OECDと日本の組織との違いは何でしょうか。

一番違うのは、組織文化だと思います。日本ではヒエラルキーがはっきりしていて、それはそれでシンプルでやりやすいという面はあると思います。他方、日本は保守的で、必ずしも能力主義ではないので、日本的な感覚を持ったままOECDに転職すると難しい部分はあると思います。OECDでは、どれくらい幹部を絡ませて、ビジビリティのある仕事をしたかが評価につながり、こつこつと地道な作業をすることが評価されにくい傾向があります。

 

これからやっていきたいことはありますか。

長期的な視点で政策課題を取り上げて戦略的に提言できるようにできればと思っています。また、自分の強みである企画・調整・実行力を活かして仕事ができればと思っています。

 

また、私は、2001年に立ち上がった「茶話会」と呼んでいるOECDで働く日本人職員間のネットワークで幹事を務めており、情報共有や業務・生活のサポートを目的とした勉強会等を企画しています。着任したばかりの日本人職員に頼られる機会も多く、事務局と日本政府代表部をつなぐパイプライン的役割も担っています。茶話会は、事務次長(日本人)からも支援してもらっており、OECDに長くいる者として、役に立っているのかなと思っています。

 

学生や若手へのアドバイスをお願いします。

やはり専門性を研ぎ澄ませることです。国際機関はハードルが高いと思われがちですが、一部の幹部職ポストを除き、ジェネラリストよりも専門性の高い人の方が採用されやすいので、専門性を追求し、OECDのような国際機関に挑んで欲しいと思います。日本人は遠慮がちな国民性で、国際機関では不利ですが、それを克服してOECDで頑張っていってほしいですね。そのためにも専門性を高めて、自分の仕事に自信が持てるようになると、自分の考えを主張しながらやっていけるようになれればいいと思います。多国籍・多文化な環境で働くには、自分の指針や価値観をしっかり持って周囲とコミュニケーションをとることが大事です。コミュニケーションというのは、言葉をしゃべるだけではなく、多様な人間と関わって、信頼関係を構築していくことが一番大事で、人を魅了できるコミュニケーション能力を磨くよう努力していってもらいたいです。

 

家庭と仕事の両立についてもアドバイスをいただけますか。

(写真)横井眞美子 OECD金融企業局インフラ担当主任

フランスは、子育てがしやすい国だと思いますし、日本人には特に親切な国です。フランスでは、3歳から公立の幼稚園に入れて、学校期間中は朝8時半から夕方5時半か6時くらいまで学校か学童保育があり、また休暇期間中も小学校卒業までは子どもを預かってくれる公的な仕組みがあり、非常に充実しています。出張の際は、パートナーとの協力か人を雇っての対応が必要になりますが、これまでどうにかやりくりしてきました。 (代表部注:フランスの政策次第で各種制度は随時変更される可能性があります。実際にご利用される際には、よくお確かめになることをお勧めします。)

 

インタビュー実施:
2025年3月


インタビュー:
木村 優吾OECD起業・中小企業・地域・都市局JPO
OECD日本政府代表部


写真撮影:
OECD日本政府代表部