OECD邦人職員の声 : 山口 俊太 OECD環境局 政策分析官
2020年11月

1. 担当業務
OECDは、世界中の人々の生活を向上させるための政策を推進する国際機関です。政策のシンクタンクとしても知られています。世界的な課題に対処するため、各国政府間の対話の場を提供し、客観的な分析とデータに基づいた政策提言を行い、幅広い分野で国際基準を設定しています。
私自身は、2014年からOECD環境局の政策アナリストとして働いています。2016年から現在までは「貿易と環境」の分野を担当し、OECDの「貿易と環境に関する合同作業部会(Joint Working Party on Trade and Environment)」の事務局を務めています。特に、貿易政策と環境政策の整合性をどのように確保するのか、貿易政策がどのように環境に役立てるのか、また、環境政策が保護主義に加担しないようにするためにはどうすればよいのか、などを分析して報告書を作成し、各国政府と議論して連携を図っています。具体的に取り組んでいるプロジェクトとしては、「国際貿易と循環経済」「自由貿易協定と環境」「国際貿易と気候変動」などがあります。
「貿易と環境」というテーマ自体は、30年近く前から貿易と環境に関する合同作業部会で議論されてきたものであり、目新しいものではありません。しかし、近年、パリ協定(*1)や SDGs(*2)などの包括的な環境と持続可能な開発の枠組みが合意されるにつれ、貿易政策がこれらの枠組みにどのように貢献できるかが注目されるようになってきています。また、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11)(*3)をはじめとする多くの自由貿易協定が交渉・締結される中で、一般市民の理解を得ることが不可欠となっており、貿易自由化が環境汚染につながらないよう改めて注意を払う必要があります。これらの課題解決に向けて日々挑戦しているところです。

2. 業務のエピソード – 国際貿易と循環経済のレポートの執筆
私にとって最も思い入れのある業務は、国際貿易と循環経済(International trade and the circular economy)のプロジェクトを立ち上げたことです。循環経済とは、製品のリサイクルや再利用、環境配慮設計等を通じて、資源を経済の中で循環させ、資源の消費と廃棄物を最小限に抑えることによって、環境への負荷を軽減することを目的としています。もともと環境分野で注目されている循環経済と、国際貿易との関わり合いについて、日々の業務の中で調べる必要性を感じていました。特にきっかけとなったのが、とあるOECDの会議で、貿易政策担当官が「廃棄物は有用な資源として、より自由に貿易されるべき」とコメントしたところ、廃棄物政策担当官が「自由貿易が許容されたら、廃棄物は最も処理費用の安い世界の僻地で不法投棄されるだろう」と強い懸念を示し、相反する意見が交差したことから、「国際貿易と循環経済」は今後の重要な政策テーマとして深く掘り下げていく必要があると感じました。いざ、国際貿易と循環経済について調べてみると、2017年時点では驚くことにほとんど文献が存在しませんでした。内外の専門家に話を伺いながら分析を行い、自分なりに考えをまとめたものを2018年に「国際貿易と循環経済」のレポート(*4) として発表したところ、大きな反響があり、多くの方に読まれ、OECD、世界貿易機関、世界関税機構、世界循環経済フォーラムなどの会議 (*5)で発表する機会にも恵まれました。いまでは「国際貿易と循環経済」は、「貿易と環境」分野の主要プロジェクトになるまでに至り、自分なりにインパクトを残せている業務のひとつとしてとらえています。

3.OECDで働くことの魅力
OECDで働く最大の魅力は、仕事のダイナミックさにあります。世界の動向を捉え、業務を企画・実施し、国際的な場で議論することで、環境や生活の質の向上に貢献できると考えています。私は過去にNGOで働いたことがありますが、NGOはフットワークが軽く、地域に根ざした活動ができるという大きなメリットがある反面、資金力やインパクトの面で限られていることもあり、より上位政策に携わるような仕事がしたいと考えていました。その後、前職の国際協力機構(JICA)では、二国間協力の下、省エネルギーや再生可能エネルギーの普及に関する開発調査や政策提言、技術協力などを行い、非常に有意義な業務に携わっていましたが、多国間の枠組みで環境政策に取り組むことで、より視野を広げ、キャリアのステップアップをしたいと思い、外務省のJPO派遣制度(*6) を利用してOECDに転職しました。
OECDの強みは、グローバルな課題が数多く議論されていることであり、職員としてこれらに自由に参加できること、またOECDの会合を通じて、各国の政策立案者や専門家と意見交換する土壌が長年にわたり積み上げられてきていることだと思います。OECDでは、加盟国間で意見が対立することもあり、国際基準や報告書の作成などで、各国との調整に時間を要する場合もありますが、最終的には加盟国主導の国際機関として、より洗練され、より中立的な政策提言が行えるというメリットがあります。また、OECDには、今日の緊急かつ喫緊の政策課題を取り上げることが求められています。昨今では、コロナ禍を受けて、今後の政策立案や経済対策などを、それぞれの分野でどのように検討し、対応していくかが問われています。

4. これからOECDで働きたい方へのメッセージ
OECDを就職先として検討されている方は、ぜひチャレンジしてみてください。OECDに来られる方々は、インターン、ヤング・アソシエート・プログラム(YAP)、コンサルタント、JPO派遣制度、ヤング・プロフェッショナル・プログラム(YPP)、公募採用など、さまざまな経路で採用されますが、エントリーレベルの採用が比較的多く見受けられますので、特にキャリアの早い段階でチャレンジされることをお勧めします。私自身は当初、外務省のJPO派遣制度を活用してOECDに着任し、その後、公募プロセスを経て正規採用に至りました。私の場合、JPO派遣制度がなければ現在には至っていませんので、JPO派遣制度の条件を満たしている方々には、ぜひこの制度を活用していただければと思っています。
国際機関で働く上で悩ましいことは、中長期的なキャリア形成の見通しがつきにくいことです。数年先の具体的な展望を持ちにくいという悩みは、当初、私自身にもありました。今では、OECDは、同僚と切磋琢磨し、内外の専門家と議論を重ねながら、自分自身の専門性を徹底的に磨き、キャリアを形成する上で適した場所だと思っています。自分自身のキャリアを積み重ね、自己実現できていると実感しています。
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(*1) パリ協定(Paris Agreement): https://unfccc.int/process-and-meetings/the-paris-agreement/what-is-the-paris-agreement, http://www.env.go.jp/earth/cop/cop21/
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(*2) 持続可能な開発のための2030アジェンダ (Sustainable Development Goals (SDGs)): https://sdgs.un.org/goals/, https://www.env.go.jp/earth/sdgs/index.html
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(*3) 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定: https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_005763.html.
(*4)Yamaguchi, S. (2018), "International Trade and the Transition to a More Resource Efficient and Circular Economy: A Concept Paper", OECD Trade and Environment Working Papers, No. 2018/03, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/847feb24-en.
OECD (2018), “International Trade and the Transition to a Circular Economy”, Policy Highlights, OECD Publishing, Paris,https://www.oecd.org/environment/waste/policy-highlights-international-trade-and-the-transition-to-a-circular-economy.pdf.
(*5)OECD (2020), “Trade and Circular Economy - Striking Balance in Waste Trade”, OECD Environment, YouTube channel, 20, May 2020, https://www.youtube.com/watch?v=MSOEzdDQscQ .
WCEF (2020), World Circular Economy Forum (WCEF) online side event, circular economy services – enabling a global transition through international trade, organised by the International Institute for Sustainable Development (IISD) and the Finnish Innovation Fund (Sitra), 15 October 2020, https://www.sitra.fi/en/events/circular-economy-services-enabling-a-global-transition-through-international-trade/.
WCO (2020), “Permanent Technical Committee, Panel Session, Customs fostering Sustainability in the WCO Theme of the Year 2020”, 28 October 2020, World Customs Organization,https://vimeo.com/461025896/2bab9c92d5.
(*6)外務省JPO派遣制度:https://www.mofa-irc.go.jp/jpo/.