日本の健闘:コロナ対策
2021年10月
OECD日本政府代表部大使
岡村 善文

東京オリンピック・パラリンピックでは日本選手が健闘しました。日本がメダルを獲得すると、日本国民として誇らしい。スポーツだけではないです。OECDでも様々な分野で国際比較があります。日本がOECD加盟国の間でいい成績を取れば、鼻高々です。
ところでOECDには、加盟国各国の政策を互いに紹介し、批評し合うという、独特のメカニズムがあります。この方式を相互審査(peer review)と言います。経済政策についてもこの相互審査があり、2年に一度、対日経済審査が行われます。OECDの経済総局が、トップクラスの専門家を動員して日本の経済事情を精査し、報告書案を作ります。さらに報告書案をもとに、OECD加盟各国の経済政策担当者などが参加する経済開発検討委員会(EDRC)という審査会議が開かれます。会議では加盟各国から、日本の経済政策について疑問点などが示されますので、日本の経済関係省庁の担当者から説明を行い、その議論を踏まえて報告書が公表されます。
先日(9月8日、9日)この審査会議が行われました。報告書案の中で、また会議でも、日本の政策の良い点や改善すべき点が指摘されました。なかには結構耳の痛い批判もあり、これらには日本政府として謙虚に耳を傾けなければなりません。一方で、それは誤解ではないか、偏った見方ではないか、という内容もないわけではない。それらにはしっかり反論し、見方を正す必要がある。
いやいや、外交官としてはそういう受け身の対応だけではいけないな。もっと前向きに考えれば、この対日経済審査は、日本の政策が優れているということを、各国に対して宣伝する場でもあるのです。どうもメディアなどでは、日本の政策の実績について悪い面ばかり取り上げて、悲観的な意見が流れる傾向があります。それだけを見ていると、日本の国民の一人として私も、日本は駄目だなあと思ってしまう。ところが、報告書案を読み、会議の準備で日本の実績を調べてみると、どうしてどうして、日本は他のOECD加盟国と比べて優れていることが多いのです。今年の経済審査は、コロナ禍の経済への影響を踏まえ、政府のコロナ対策が進んでいるかが話題になりました。そこで日本の健闘ぶりが明らかになったのです。私が注目した日本の優れた点を挙げてみます。
(1)日本は新型コロナウィルス感染症の蔓延を良く食い止めている。
他のOECD諸国に比べて日本の一日あたりの感染は決して多くない。百万人あたりの感染者数は、会議直前の9月5日時点で日本は約130人です。米国約490人、英国約520人、フランス約200人に比べれば、日本は格段に低く、今はもっと下がっています。いや日本の感染者数は、PCR検査を積極的に進める欧米に比べて表に現れていないだけじゃないか。そういう反論があるかもしれません。それなら百万人あたり死者数で見れば良い。米国4.69人、英国1.66人、フランス1.64人、イタリア1.00人に比べて、日本はわずか0.45人で、これも格段に少ない。でも、ワクチン接種が遅れているはずだ。確かに日本は当初は遅れていた。でもその後急速に巻き返し、今は約7割の人が1回は接種済み、接種率についてすでに米国を追い越している。(出典:Our World in Data)
(2)日本はコロナ禍の経済的悪影響をしっかり防止している。
コロナ禍で経済活動や移動が制限され、各国とも経済的悪影響がたいへんです。各国のGDPは軒並み落ち込みました。でもその中で、日本は落ち込みが少なかった。経済指標が表に出るのには時間がかかるので分からなかったが、蓋を開けてみるとGDP成長率はコロナ前と比較して日本はマイナス4.6%に留まっています。米国はマイナス3.4%となっているが、英国はマイナス9.8%、フランスはマイナス8.0%、イタリアはマイナス8.9%です。世界中で深刻だったのは雇用喪失です。日本でも確かに失業が増加した。しかし、失業率の悪化幅は一番悪い時でわずか0.7%に留まりました。これは米国の11.2%、英国の1.3%、イタリアの2.9%などに比べて、断然頑張っています。(ともに2019年と2020年の比較・差)(出典:OECD、各国統計)
オリンピックと違って、OECDではメダルが出ないですからね。こうした事実はあまり世間に知られない。しかし日本はけっこう健闘している。日本人は謙虚で自己主張を控えますから、なかなか表に出ないけれど、OECDによって得られる数字は、それを証明してくれる。報道などを通じた印象とは異なった日本の姿が、OECDを通じて世界に明らかになるのです。