OECD邦人職員の声:伊藤 明日香 国際交通フォーラム(ITF)交通政策アナリスト

令和3年12月23日
2021年12月
1. 現在の業務
 OECD傘下の国際交通フォーラム(ITF)の政策分析課で、交通政策アナリストとして働いています。OECDで非加盟国との関係強化を担う、グローバル関係局東南アジア課を経て、2019年に着任しました。ITFは、人々の生活を豊かにする交通政策の実現を目的としたOECD傘下の国際機関です。経済成長や環境の持続可能性、社会的包摂において交通が果たしうる役割、及び交通政策に対する世間一般の理解を深めることをミッションに活動しています。 OECD加盟国に加えて、ロシア、中国、インド等合計63ケ国が加盟するITFは、交通政策を巡る情勢を分析し、政策決定者や市民社会の間での情報や知識の共有と交流の促進を図っています。すべての交通モードにまたがる政策課題の討論と事前交渉を行う世界的なプラットフォームとしても機能しており、年次サミットは、各国の交通大臣が集まり、交通政策を話し合う、この分野で世界最大の会合となっています。ここで私は、スマートモビリティー、交通安全、コネクティビティー(連結性)、持続可能な交通など、幅広い問題に取り組み、他の国際機関及び政府機関、民間企業や学術界との調整も担当しています。
 
コロナ禍を機にバーチャル形式を取り入れ、ハイブリッドでの開催となった年次サミット
コロナ禍を機にバーチャル形式を取り入れ、ハイブリッドでの開催となった年次サミット

2. 大局を見据えて、国際協調のダイナミズムを生きる仕事
 ITFへの着任直後の2019年には、米州開発銀行(IDB)の出資による「ラテンアメリカ三都市の都市交通の脱炭素化プロジェクト」に従事しました。スペイン語通訳として南米の政府機関で働いていた経験と縁を活かし、チームメンバーとして、国・州・都市の代表者、及びスタートアップ企業を巻き込んだ政策対話イベントをスペイン語で開催し、レポートを執筆して政策提言を行いました。
 2020年には、G20サウジアラビア・デジタル経済大臣会合の為に、レポートを共同執筆するとともに(「デジタル技術及び人間中心のスマートシティーの為のデータ活用:スマートモビリティーのケース」)、「G20 スマートモビリティー原則」について、大臣間の合意形成の主導に主担当として関わりました。世界的なコロナ禍の中、経済活動を支えるデジタル社会を如何に実現し、新しい日常を創っていくか。デジタル技術を活用した街づくりへ早急に転換することが求められていました。合意に達するまでには多くの困難もありましたが、同じ課題に直面する各国の代表が集まって協議を重ね、好事例や教訓を共有し合うことで理解を深め合うことができました。国際協調の意義を感じつつ、真の目的を見誤らないよう、大局のコンセプトを示していくリーダーシップも求められる、ダイナミズムのある仕事でした。

(左)ブエノスアイレスでのプロジェクトキックオフ会、(中)メキシコシティ―での政策対話イベント、(右)プロジェクトメンバーと(左)ブエノスアイレスでのプロジェクトキックオフ会、(中)メキシコシティ―での政策対話イベント、(右)プロジェクトメンバーと。

3. OECDで働くことの魅力
 OECDで働く大きな魅力は、仕事のスケールの大きさ、ネットワークの広がり、個人としての国際競争力が高まる点にあると思います。担当分野の政策における加盟国の優先事項や課題を把握することは必須ですが、メインとなる業務以外に、官民連携プロジェクトを担当する機会も多くあります。例えば、スイスに本部がある持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)との共同プロジェクトでは、プロジェクト・マネージャーとしてメンバーである民間企業数社と共にレポートを作成しました。地域別に世界の専門家を集めた政策対話の場は、ニューモビリティーにおける官民の役割分担と更なる連携の可能性について議論を深める機会となり、ヨーロッパ最大のスタートアップ企業の祭典であるVivatechnology2021等のイベントにスピーカーとして招待されるなど、学術界や民間企業とのネットワークを広げることもできました。
 また、コロナ禍に伴いバーチャル形式の国際会議やイベントが増加する中で、交通の専門家だけでなく、幅広いバックグランドを持つ参加者を対象としたウェビナーの企画・開催にも取り組みました。日本については、国内の好事例を海外に発信する一方で、日本の聴衆にも世界最先端の議論が届けられるよう、有識者会議メンバーの渡仏視察のサポートや、国土交通省が主催する研究会でのプレゼン、日本の文脈に即してレポートの内容を紹介するウェビナーの開催など、精力的に活動し、広い人脈形成にも繋がりました。
 OECDをはじめとする国際機関では、さまざまな価値観が入り乱れ、常に優劣を競っている側面があります。自らの価値観を表明し相互の違いを認識した上で、違いを乗り越えて、国際社会共通の価値基準を形成していくところに、難しさと醍醐味があります。国際機関におけるキャリア形成は、全て自分で組み立てていくプロジェクトとなります。自分で目標を立て、世界の公益に貢献できる能力と実績をアピールし続ける姿勢が大切です。「あなたはこの組織の為に、この世界の為に何ができますか?」と問われる毎日はハードではありますが、個人としての国際競争力は大きく高まります。

(左)Vivatechnology2021 MaaSセッションにて、(中)直属の上司たちと、(右)OECD国際交通フォーラム事務局長のキム・ヨンテ氏と(左)Vivatechnology2021 MaaSセッションにて、(中)直属の上司たちと、(右)OECD国際交通フォーラム事務局長のキム・ヨンテ氏と

4. これからOECDで働きたい方へ
 世界規模の問題に貢献したいという情熱を持ち、その為に研鑽していく意欲のある方にとっては、OECDはやり甲斐のある職場だと思います。利害が対立することも多い中で、より高い次元の価値を提示していくには、自らの意見をルーツの深さを持って説明する力も必要となります。また、自分の問題意識と国際協調とのバランス感覚も重要です。その意味で、日本の組織で培ってこられたであろう丁寧なコミュニケーションやビジネスマナー、調整能力も強い武器となるでしょう。
 現在OECDでは、基本的に職員は最初は有期契約です。長期雇用契約で組織に所属している方にとって、OECDへの転職は、キャリア形成や人生設計においてリスクが伴う選択であることも事実です。一方で、数年間OECDに勤務して個人としての能力を高め、その経験を自国や他組織に還元した後に、より高いポジションで国際機関に戻ってくる同僚も多く、国際社会での将来の活躍に繋げられる場所でもあります。個人としてグローバル社会に貢献して生きたいと考える方にとって、外務省JPO制度等を利用してOECDでのキャリアにチャレンジすることは、間違いなく有益な機会となるでしょう。