ロシアのウクライナ侵略:石油節約の提言

令和4年3月30日

2022年3月
OECD日本政府代表部大使
岡村 善文

 
(写真)岡村 善文 OECD日本政府代表部大使

先週(3月23-24日)、国際エネルギー機関(IEA)の閣僚理事会がパリで開催されました。こちらでのコロナ事情がだいぶん改善してきたことから、今回はビデオ会議ではなく従来どおりの対面での開催になりました。日本からは、萩生田経産大臣、小田原外務副大臣が出席しました。

 

今回の閣僚理事会は、最近のエネルギー価格高騰への対策や,気候変動対策を踏まえたエネルギー消費について議論しようと準備されてきました。ところが直前にロシアのウクライナ侵略が始まりました。ロシアから欧州への石油・天然ガス供給の問題がクローズアップされ、エネルギー安全保障が重要課題になりました。

 

会議に先立つ3月18日、IEAは、ロシアからの石油供給の減少の可能性があることから、石油消費を減らすための「10の提言」別ウィンドウで開くを発表しました。先日、ロシア産の天然ガスへの欧州の依存度を軽減するための政策を提言したところで、それについてはすでに記事別ウィンドウで開くにしました。今度はその石油版と言えます。

 

この発表によると、IEAの最新の分析では、今後ロシアの石油輸出量は、制裁等の影響により4月以降250万バレル/日ほど減少する可能性があるということです。もし先進国が、この「10の提言」をこぞって実施すれば、今後4か月で270万バレル/日の石油需要(世界の需要の約3%)を削減することが可能だ、と述べています。 提言されている石油消費抑制政策を見てみます。

(1)高速道路の速度制限を最低でも時速10km下げる(自家用車について29万バレル/日、貨物トラックについて14万バレル/日の節約)。

(2)週3日間、テレワークする(50万バレル/日の節約)。

(3)都市において、日曜日の車の使用を制限する(毎日曜日制限すれば、38万バレル/日、月に1日曜日の制限なら9万5 千バレル/日の節約)。

(4)公共交通機関の利用料金を安くし、徒歩や自転車の利用を推奨する(33万バレル/日の節約)。

(5)大都市における車道の利用方法を変更する。例えば日ごとにナンバープレート(偶数・奇数)に分けて制限する(週2日適用すれば21万バレル/日の節約)。

(6)カーシェアの利用を増やす(47万バレル/日の節約)。

(7)貨物トラックの効率的な運転(運転習慣、タイヤ圧等の定期的なチェック等)を行い、商品の配送を促進する(32万バレル/日の節約)。

(8)飛行機の代わりに既存の高速鉄道や、夜行列車を使う(4万バレル/日の節約)。

(9)代替オプションが存在する場合、海外出張を控える(26万バレル/日の節約)。

(10)電気自動車やより効率のよい車の採用を補強する(10万バレル/日の節約)。

 

なるほど、石油需要を抑えるためには、われわれの生活・仕事の態様を変えて、自動車や飛行機をなるべく使わないようにしよう、という提言ですね。確かに、石油の消費の約60% はこうした輸送関連ですから、それらを抑制することができれば石油を大幅に節約できるわけです。今回はロシアの石油依存の問題として提言されていますが、これは脱炭素のための石油消費抑制の提言でもあります。

 

さてそういう趣旨の政策提言ということなら、私の目からすれば日本にはもっと有益な提案ができる、と言いたいです。ここパリに住んで欧州の人々の生活を見ていると、日本に比べて随分大きく車に依存している。日本の人々のほうが、ずっと良く公共交通機関を利用しています。東京近郊に住んでいる人のうち、都内に出かけるときに車を使おうと考える人は少数派です。

 

もちろん日本の都市近郊では、公共交通機関が格段に発達しています。パリ周辺にも近郊への電車がありますが、東京のように10分間隔で電車が出ているというような頻度ではないし、車内での治安が悪いなどの理由から敬遠されがちです。郊外でのバス路線網もかなり貧弱です。だから車に頼らざるを得ないのですが、それだからといって公共交通機関を早急に整備するわけにもいきません。

 

そのような簡単には実現できそうもないことを大掛かりに考えなくても、生活・仕事の態様を変えるだけでだいぶ石油の節約ができるとIEAは提案しているのです。そういった人々になるべく車を使わないように導く知恵なら、日本にもあります。

 

一つには、パリ市内では路上駐車が激しく、ほぼ全ての道に車がびっしりです。東京では路上駐車は原則禁止。限られた有料駐車場を使うしかなく、しかも車を一時間も入れようものなら軽く千円を越える。パリでも路上駐車を禁止するか、駐車料金を格段に上げれば、車でパリに来ることを避ける人がずっと増えるでしょう。

 

こちらでもっと違和感があるのは、高速道路の料金が安いこと。パリ市内や相当離れた周辺まで高速道路は無料です。長距離になれば料金を取りますが、日本に比べれば格段の安さ。ドイツや英国なども、気候変動対策で化石燃料を使うな、と日本に迫ってくる割には、高速道路は全国無料で車に優しい。それに比べて東京では、首都高をちょっと走るだけで500円以上取られます。そういうところ日本に見習ったらどうか。

 

一方パリで優れたところもあります。市内に自転車専用レーンが整備されている。市内移動に自転車を使うと、渋滞の道路に比べてはるかに円滑に移動できます。パリ市内の方々に自転車の簡単な貸出し施設があり、スマホをかざすだけで電動自転車に乗れます。このように各国でそれぞれ良い政策が実行されています。それらを互いに紹介しあって、良いものを採用する、こういう相互のアイディアを交換できることがOECDやIEAの強みです。

 

とはいえこの発表については、IEAは私にも意見を聞いてほしかった。そうすれば路上駐車禁止と高速料金値上げを入れて、「10の提言」ではなく「12の提言」になったのですけどね。