OECD邦人職員の声 : 北森久美 OECD環境局次長
ニューヨーク大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで学士号、修士号を取得。1994年世界銀行入行。2000年にOECDに転じ、一貫して環境に関する様々な業務に携わってきた。2022年から現職。
OECDに入ったきっかけを教えてください。

2000年にヤング・プロフェッショナル・プログラムでOECDに入りました。大学院生の頃から環境経済などの勉強をし、特に開発協力と環境問題に関心があり、OECDで働く前は6年ほど世界銀行で環境に関する業務に従事していました。世界銀行では、南アジアや東南アジアの政府と直接対話しながら、都市インフラ(上下水道設備、汚水処理施設、ゴミ処理)、工業汚染対策のグリーンテックといった環境インフラへの投資プロジェクトに関わっていて、現場を見ることができたのですが、キャリアのためには同じポストに留まるのではなく、違うことも経験し、キャリアの幅を広げたいと思い、OECDに目を向けました。現在はヤング・プロフェッショナル・プログラムという制度はなくなってしまったようですが、ヤング・アソシエート・プログラムや日本政府が派遣するJPOなど若手向けのエントリーポイントがあります。
OECDに入った後は、環境税制や排出権取引、環境規制等の分析を行うなど、環境政策がどうあるべきかという観点から環境問題に取り組むことになりました。世界銀行とOECDでは同じ環境分野であっても全く業務内容が異なりますが、OECDでの政策レベルでの業務と世界銀行での現場経験との両方を経験できたことが、環境での専門性を深めることにつながりました。高校、大学の頃から国際的な仕事をしたいと思っており、修士課程での勉強を通じて環境への関心を高めましたが、当時の1990年代は地球規模課題として環境問題に取り組まなければならないという時代背景もあったと思います。
現在どういうお仕事をされていますか。
2022年からOECD環境局次長を務めており、局長をサポートしながら、環境局の業務全体を統括しています。環境局は幅広く色々な業務を行っていますが、特に気候変動や生物多様性など、政策的な優先順位の高い事項や、横断的なプロジェクトIFCMA(Inclusive Forum on Carbon Mitigation Approach)やHorizontal project on building climate and economic resilienceなど、OECD内の複数の部局や委員会等との関わりの多い事項を中心に見ています。
(写真提供:OECD)
OECDの仕事で、これまでで一番やりがいのあった業務について教えてください。

他部局や外部機関との関わりの多い横断的要素の高い仕事にやりがいを感じています。2011年、2012年頃にOECD理事会でグリーン成長イニシアティブ(Green Growth Initiative)が立ち上げられ、OECDの各委員会で環境アジェンダをメインストリーム化していくことになりました。私は、その調整を担っていたのですが、それから10年以上たって、20近くの政策委員会で各違った視点から気候変動に関連する研究される時代になっていることを考えると、このイニシアティブは成功だったと感じています。
その前には、「環境アウトルック2050」という、2050年に環境がどのようになっているかのモデリングに関する局内横断的なプロジェクトを行いました。これは、外部パートナーとも協力して行っていたもので、それぞれ異なる専門性を発揮できた有意義かつ興味深いものでした。 また、2015年から2017年にかけて行った中国グリーン成長と産業高度化に関する研究プロジェクトは、中国政府との協力プロジェクトで、OECD内でも環境総局、科学技術イノベーション総局、経済局など、様々な部局と連携し、やりがいのある仕事でした。 組織というものは縦割りで硬直しがちなこともありますが、横の絆を見いだすことに大きな意義があると感じています。
一昔前の世界銀行などでは、環境専門家は、インフラ投資の際に環境アセスメント (Environmental Impact Assessment)がきちんと行われているかをチェックするなどだけの仕事と見られていた側面がありましたが、今は環境のメインストリーム化が進み、前向きな姿勢で環境問題に取り組まれることが増えてきました。環境意識が高まり、水、土壌、森林やエネルギー転換に重要なクリティカルミネラルなどの資源がなければ経済活動は成り立たないという共通認識が持たれるようになりました。長いスパンで環境に取り組んでいく必要があると感じています。幅広い環境問題の中で、今後、より重要になってくるアジェンダとしては、自然や生物多様性が挙げられ、OECDとしても積極的に取り組んでいくべきだと考えています。
まず多文化な環境の中で働けるということが挙げられます。私は日本で働いたことはないのですが、OECDで様々なバックグラウンドを有する人たちと一緒に働けるのが心地よく感じています。OECDでは、環境だけではなく、経済、租税、イノベーション,貿易,農業等様々な分野の専門家たちと同僚として日々働けることも魅力です。各国政府の政策立案者と直接交流できるのもやりがいを感じる瞬間です。
OECDで働くのは、専門知識をもった15年、20年以上のキャリアをもった人ばかりなのでしょうか。
若い方もたくさんいて、バリバリと頑張っていますよ。OECDで働き続けられる若手は、過去の経験や自分の興味・関心をうまく結びつけ、プロジェクトの将来性などを見定めてチャンスをつかんでいます。
国際機関でのキャリアアップを目指す学生や若手へのアドバイスをお願いします。

何よりも一番重要なのは専門性を深めることです。コミュニケーション能力や語学力は努力で何とかなりますが、やはり自分の分野の専門家として周囲から認識してもらえるようになることがプロフェッショナルとして大事なことです。何年も働いても専門分野がないとおっしゃる方もおられますが、必ずしも環境、貿易や租税といったセクターの専門性でなくても、例えば交渉や広報等も専門性の一つだと思います。
環境を例にとってみると、環境の専門性を深めるといっても、環境とは幅が広く、OECD内でも、環境局だけではなく、様々な部局で様々な角度から環境問題に取り組んでいます。またエネルギーを扱うIEA、経済総局や税務政策センターでも環境経済の専門家が活躍しています。専門性に加えて横断性も重要な要素だと思います。OECD内ではモビリティも重要視されており、環境局と他部局の間での専門職員の移動はよくあります。
国際機関では、受け身の姿勢で仕事が与えられるのを待っているのではなく、自分から仕事とチャンスをつかみに行く姿勢が必要です。特に若手の方は将来性のあるプロジェクトや課題を見極めて挑戦し、そこで業務経験を積み重ねていけるようにすれば、専門性を磨けるだけではなく、職務経歴を高めることにもつながります。
インタビュー実施:
2025年2月
インタビュー:
竹村 亮佑OECD租税政策・税務行政センターJPO
OECD日本政府代表部
写真撮影:
OECD日本政府代表部