OECD/IEA邦人職員の声:石橋裕子OECD環境局アドバイザー&谷口亮太IEA持続可能エネルギー・技術・見通し局ジュニアエネルギーアナリスト

令和8年1月27日
石橋裕子 Ms Yuko Ishibashi
日本銀行、ブルームバーグ、オックスフォード大学などでの勤務を経て、2023年にOECD環境局でJPO※として勤務を開始し、現在は同局でアドバイザーを務める。LSEで学士号(国際関係学)を、ケンブリッジ大学で修士号(公共政策)を取得。


谷口亮太 Mr Ryota Taniguchi
青山学院大学国際政治学部卒業後、エネルギー関連企業や外務省で勤務。ジュネーブ国際・開発研究大学院在学中にIEAでインターンを経験。大学院卒業後はIEAでJPO※として勤務し、2025年1月からは正規職員として電力セクターのデータ・政策分析などに従事している。


※ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー。JPO派遣制度は外務省が派遣取決めを交わしている国際機関に対し、2年間、若手日本人を派遣するプログラム。

本日は、石橋さんと谷口さんのお二人にお話を伺います。石橋さんと谷口さんは、2022年度JPOで、現在はそれぞれOECD、IEAで正規職員として勤務されています。現在どういうお仕事をされていますか。

(写真)石橋裕子

(石橋裕子さん)

石橋さん:
OECD環境局環境経済統合課でアドバイザーを務めています。私の課は、文字通り、相反するものと捉えられてしまいがちな環境(保全)と経済(成長)の両立をテーマに研究を進めており、私はレポートの執筆や分析などのリサーチ業務、部署内外との調整業務を担当しています。11月にOECDは、気候変動、生物多様性の損失、汚染という三重の地球的危機のテーマに関する環境アウトルックを発表しましたが、最近までこの業務に関わっていました。また、課の窓口として、プレゼンテーションの依頼等、他課や局からの要望に応じた資料作成なども行っています。議論への参加を通じて自身の専門性を高めつつも、貿易や循環経済など幅広いテーマに携わることができ、恵まれた環境で働いていると感じています。


谷口さん:
IEAの持続可能エネルギー・技術・見通し局で、長期のエネルギー見通しに関するレポート準備に携わっています。具体的には、電力部門に関する政策情報の収集・分析、そしてモデリングを用いたデータ分析、レポート執筆などを行っています。私の所属する世界エネルギー見通し(World Energy Outlook)チームはIEA内でも大きなチームであるため、調整業務やワークショップの開催・運営などにも携わっています。また、企業・団体などからイベントなどへの登壇依頼をいただき、プレゼンテーションを行うこともあります。 (代表部注:モデリングとは、アウトルック(経済等の見通し)の試算のために、前提となる仮定を置き、データや関係性を数式化することを指します。)

OECD/IEAの仕事で、面白かった業務や出来事について教えてください。

((写真)谷口亮太

(谷口亮太さん)

谷口さん:
この3年弱、IEAで勤務する中で10本ほどのレポート執筆に携わりました。特に、蓄電池に関するレポート執筆では、業界関係者、政府関係者、アカデミアなどの方々100名ほどを招待してワークショップを運営した経験があります。招待者リストの作成をはじめ、短い準備期間の中大変でしたが、ワークショップでの議論は非常に面白く、ネットワーク形成にも役立ち、有意義な経験となりました。 IEAの役割は、多くのレポートを作成し、政策決定者や民間企業の方々に具体的な数字を提示することだと考えています。一度、自身が分析した数字が日本の新聞に取り上げられたことがあり、その際は素直に嬉しく感じました。


石橋さん:
特に印象に残っているのは、2024年に環境正義(Environmental Justice)をテーマとしたレポート執筆とカンファレンスの企画をしたことです。環境正義は、日本語ではあまりなじみがない言葉であり、多くの国で明確な定義が定まっていません。このような状況で、環境正義を政策とどのように関連付け、どう分析すべきか、チームと何度も議論を重ねながらレポートを書き上げました。レポートのローンチ時にカンファレンスを企画したのですが、環境経済だけでなく、健康科学や法律の専門家、若者など、多様なスピーカーを招いて開催することができました。専門家や関係者を集めて議論の場を提供するという、OECDの大事な役割を実感した思い入れのある業務です。また、同時に、議論の場を提供した後、どのように政策議論をさらに深めていくべきかという課題にも直面し、それも重要な経験だったと考えています。

環境正義は、耳慣れない言葉なのですが、どういったことを指すのでしょうか。公正な移行(Just Transition)とは異なるのでしょうか。

石橋さん:

たとえば、石油の使用が減ることで仕事を失う人が出たり、ガソリンに炭素税がかけられることで低所得層に多くの負担がかかったりするなど、社会的な変化が生じます。社会と環境の関係性は国によって様々であり、明確な定義はまだありません。
公正な移行と非常に関連性が高いですが、論点の範囲やルーツが少し異なります。環境正義は、米国で1980年代に起きた廃棄物による不均衡な健康被害に関するデモにルーツがあるとされています。公正な移行は「移行」そのものに着目したものですが、環境正義は歴史的な負の遺産から現在・未来の気候変動まで、より包括的な視点で見ていると言えます。

OECD/IEAに興味をもったきっかけを教えてください。

谷口さん:

私は幼い頃から海外で働きたいという思いがあり、大学では国際関係を学び、英語学習にも力を入れてきました。社会人になって一年間、外務省で働く機会があり、その際上司に相談したところ、「自分は国際機関で働きたいと言いながら、どの分野で、何を専門としたいのかが分かっていない」ということに気づかされました。自己分析の結果、私はエネルギー関連の民間企業での勤務経験があり、また父が電力会社に勤務していたこともあって、エネルギー分野で貢献していきたいと思うようになりました。国際機関でエネルギー分野に関わる仕事がしたいと考え始めた際、OECD日本政府代表部のホームページに掲載されている「邦人職員の声」の貞森IEAエネルギー市場・安全保障局長のインタビューを見て、「私はここで働きたい」と強く思いました。その後、大学院でエネルギー政策を専攻し、IEAに焦点を当ててキャリアを構築してきました。エネルギー関連の民間企業での勤務を通じて様々な発電所を見学する機会もあり、エネルギー業界のダイナミズムを知ることができ、とても楽しかったのですが、私自身は国際関係を学び、外務省での勤務経験もあるため政策への関心が強く、元々興味のあったエネルギー分野と政策を掛け合わせられるIEAは、自分の興味に最も合致すると感じました。大学院も、IEAとつながりのある教授がいる大学院を選び、その教授の授業で良い成績を取り、在学中にインターンを経験し、その後JPOとしてIEAに戻り、正規職員として現在に至ります。


石橋さん:

私の場合、10代の頃から国際機関への漠然とした憧れはあったものの、実際に自分が働くとなると少し遠い世界に感じていました。そうした中で、いろいろなセクターで経験を積みながら、関心のあることと自分なりに何が貢献できるのかを追求していく中で、OECDで働きたいと思うようになりました。
政策に関わる業務への興味、まだ「輪郭」や「色」のはっきりしないものを形にしていく調査・研究の面白さ、そして多国間で先進例や取り組みの知識共有や議論に関わることが出来る、といういろいろな要素がつながってOECDへの興味が深まっていきました。日本銀行をはじめ、それぞれの勤務先で上司・先輩に頂いた貴重なアドバイスや社会人生活を経ての大学院進学、そして結果JPO制度を通じて積むことが出来た経験のお陰で今があります。

お二人ともJPO出身ですが、JPOのメリットを教えてください。

谷口さん:

国際機関への就職を希望していて、JPOの要件である年齢、職歴、学歴などを満たしている方であれば、ぜひ検討すべきプログラムだと思います。倍率を見ても、国際機関の空席公募では倍率が100倍を超えることも当たり前ですが、それと比べるとJPOの競争倍率はもう少し落ち着いていますし、総合的に考えて良いプログラムだと言えます。JPOを経験してメリットだと感じるのは、横のつながりができることです。OECDのJPO同期とは、仕事面でも私生活面でも情報交換をするなどしており、加えてOECDの外にも世界中にJPO同期がいます。JPOを通じて気軽に繋がれるコミュニティがあるのは、とても良いことだと感じています。 また、JPO期間中にJPO研修費を利用して、エネルギー関連のオンライン研修を受講し、電力分野のマーケット分析の方法なども学ぶことができました。


石橋さん:

2年間という期間があることでプロジェクトのサイクルに関わることができますし、安心していろいろなことに挑戦できることに大きなメリットがあると思います。私の場合は、上司・先輩に恵まれ、入構からすぐにレポート執筆や会合での発表、研修を受けたりすることができました。あとは、国や国際機関を跨って、JPOを通じたつながりができることも大変心強く感じています。中途採用でありながら、同期がいるのはとてもありがたく、OECD・IEAの3人の同期にはいつも刺激と元気をもらっています。

JPOを受験する方へアドバイスいただけますか。

谷口さん:

私は、かなり戦略的に応募書類を作成したと思います。ジョブディスクリプションを読み込み、分析した上で、自身のエネルギー分野での専門性が際立つよう、ジョブディスクリプションのキーワードをレジュメやカバーレターに散りばめるように心がけました。国際機関のジョブディスクリプションは、求められるスキルセットや経験が明確に示されているため、カバーレター作成の際は、求められる各要件を満たしていることをパラグラフごとに対応させて書くようにしました。また、JPO試験の二次審査はOECDが行っています。そのためコンピテンシーベースド・インタビューについては、ある程度の準備をして臨みました。 (代表部注:JPO派遣候補者選考の方式等は、毎年同じであるとは限りません。受験する年の募集要項をよくお読みいただけますようお願い申し上げます。)

これまでの人生を振り返り、国際機関を志望したり、ご自身の分野の専門性を深めることになったりしたターニングポイントはありますか。

石橋さん:

私の場合は、ターニングポイントというよりも、点と点がつながって面になったように感じています。これまでの勤務経験を通じて、何が面白いと感じるか、何が得意で何が不得意かを知っていく中で、私はリサーチが好きで、書くことも好きであり、人から情報を聞き出し、誰が読んでも分かりやすくまとめることに面白さを感じる、と気づきました。


谷口さん:

私は、大学在学中に就職活動をしていたときから、エネルギーやインフラに関わりたいという気持ちがありました。その根本には、高校生の時に福島の衝撃的な事故が起こり、エネルギーは目に見えないが非常に重要なものであることを身にしみて実感した経験があります。
加えて、一口にエネルギー政策といっても、様々な観点があり、観点が異なれば主張内容も全く異なるということを大学院で学べたのは良かったと思っています。様々なバックグランド・意見を持つクラスメートと議論を行っていく中で、エネルギー政策論議の面白さに気づけたのは重要なターニングポイントでした。現在、IEAでグローバルな視点から包括的にエネルギー政策の分析に携わることができ、嬉しく感じています。

OECD/IEAで働く魅力やメリットを教えてください。

石橋さん:

OECDでは経済、金融、貿易から教育、開発、社会政策に至るまで幅広い分野で研究を行っています。やはり幅広い分野の専門家がおり、多角的、包括的な視点からリサーチに貢献できる点はOECDの業務における醍醐味だと思います。特に、「環境×経済」、「格差問題×環境」等、掛け算式な議論は学びの機会に溢れており日々の大きなやりがいにつながっています。


谷口さん:

OECDやIEAは、政策分析に加えて、政策に関する議論の場としての役割も期待されています。政策決定に関わることができるというのは、OECDやIEAでしかできない経験だと考えています。政策形成の一端を担うことは責任感も感じますが、自身の誇りでもあり、やりがいにつながっています。

二人とも政策に関われることに魅力を感じているとのことですが、なぜ公務員ではなく、OECD/IEAなのでしょうか。

(写真)石橋裕子、谷口亮太
石橋さん:

正直に言うと、国家公務員になりたいと思ったこともありました。政策決定に関わりたいという気持ちがある一方で、私にとってもう一つの重要な要素は、国際的なベストプラクティスや議論の場に関われることでした。後者については、OECDならではの魅力だと感じています。一つの国の政策決定に関わるのであれば、より直接的な影響を及ぼすことができると思いますが、たとえば一つの国が温室効果ガス排出削減に取り組んだだけでは、効果は限定的です。様々な課題がある中で、何が重要で、どのように協力し、どう進めていくべきか、特に貿易、環境、気候変動については国際的な協力が不可欠です。国際協力という側面から政策に関われるOECDの仕事に意義を感じています。


谷口さん:

エネルギー業界も日本だけで完結するものではなく、むしろ日本は多くのエネルギー資源を輸入している立場にあります。日本のエネルギー事情から勉強できることもたくさんありますが、それだけではグローバルなエネルギー全体の流れをつかむのは難しく、全体像を見てみたいという興味がありました。

 

さらに、純粋に国際機関で働いてみたいという気持ちもありました。OECDやIEAの多様なバックグラウンドを持つ様々な国籍の同僚たちと話をすると、日本人である自分とは全く異なる意見が出てきて、国際機関で働くからこそ気づける日々の学びがあります。このような点も国際機関ならではの魅力だと考えています。

これから手がけたい業務はありますか。

谷口さん:

JPOとして2年、正規職員となって1年が経ち、これから徐々にステップアップしていきたいと考えています。具体的には、レポート執筆においてより多くの部分を任せてもらい、機会があれば積極的に手を挙げて執筆をリードする側になりたいと考えています。

 

私のチームはモデリングオフィスで、モデリングを行うエンジニア、いわゆる理系出身者が多いのですが、その中で私は政策アナリストとして、政策情報を分析し、モデルにインプットする業務を行っています。私はモデリングの経験はないものの、上司からは興味があればぜひやってほしいと言われており、自分が弾き出したモデルの数字を使って分析することで、業務範囲を広げたいと考えています。


石橋さん:

これから専門知識を磨いていく中で、局を跨いだ横断的なプロジェクトにも挑戦したいと思っています。 また、最近ではヤング・アソシエート・プログラムで学部を卒業したばかりの若い方が入ってきて、彼らのマネジメントを通じて日々学んでいます。

OECDで生き残るには、統計が使えると有利と聞きましたが、どのソフトウェアが使えるようになると良いでしょうか。

谷口さん:

一般的にOECD・IEAで働くなかで統計やデータに強いことは有利であると言えると思います。部署によって使用するソフトウェアは異なると思いますが、プログラミングやコーディングのスキルは強みになると思います。IEAでも、希望すればプログラミングの研修に参加できる機会があります。


石橋さん:

確かに統計の知識やプログラミングのスキルは役に立つと思います。ただ、加えて関連するスキルを磨くのも大切だと感じています。私は環境アウトルックに関わっていたため、モデラーと一緒に仕事をする機会があるですが、私に求められるスキルとしては、モデリングで弾き出された数字をどのようにメッセージ性のある文章にするか、またモデリングに必要なエビデンスを見つけられるか、という点にあると考えています。

お二人の分野にはAIはどのように関わっているのでしょうか。

谷口さん:

エネルギー分野にはAIが大きく関わっており、2025年4月にはIEAでも「エネルギーとAI」というレポートを発表し、私もその執筆に関わりました。エネルギー業界では、AIによる電力需要の増加にどう対応するか、またAIがエネルギー分野に与える影響という主に2つの側面から議論が進められています。私自身はAIの専門家ではないため、引き続き勉強を続けていきたいと思っています。


石橋さん:

環境局でも、「AIと環境政策」というテーマに関心が高まっており、リサーチプロジェクトに取り組んでいます。水や大気の質のモニタリングや、環境政策の効果の分析や評価にかかるコストを下げることが出来るか等、政策示唆に富んだたくさんの可能性が期待されています。

学生や若手の方等へのアドバイスをお願いします。

石橋さん:

ご興味をお持ちでしたら、是非ともインターンシップやヤング・アソシエート、JPO等、いろいろな制度を利用してチャレンジしてみて頂ければと思います。 VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代を生き抜くのは大変です。これまでは「こうなりたい」と思ったときに、キャリアの先輩から経験談を聞いたり、逆算して今の自分に何が足りないかを考えていました。しかし、AIなどの台頭もあり、それが今後も通用するかは分からないと最近思うようになりました。そうした中で、普段自分に言い聞かせていることは、興味をもったら、何か1つ小さなことでも良いので自ら行動を起こしてみることです。また、キャリアにおいても、同じく何をもって「良い政策」とするかという根本的な議論においても、オープンにいろいろな人のお話や意見を伺うことはとても大切だと日々感じています。そうして得た学びが、研究のアイデアにつながったり、議論を深めるきっかけになると思います。


谷口さん:

国際機関を目指すか否かに関わらず、自分の専門性を極めることは非常に重要です。日本では新人を育てる組織文化がありますが、国際機関では即戦力が求められます。そのため、自分が目指す国際機関でどのような専門性が求められるのか、また自分の強みは何か、何がやりたいことなのかを把握した上で、自分に今何が足りないのか、何を伸ばしていけるのかを考え、自己研鑽していくことが重要だと考えています。

 
(写真)石橋裕子、谷口亮太

インタビュー実施:
2025年12月

インタビュー:
笹部佳江OECD起業・中小企業・地域・都市局JPO
阪本舞香OECD科学技術イノベーション局鉄鋼課ジュニアエコノミスト
OECD日本政府代表部

写真撮影:
OECD日本政府代表部