OECD邦人職員の声:加藤静香OECD雇用労働社会問題局政策アナリスト
慶應義塾大学文学部教育学専攻を卒業後、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に新卒入社。その後、早稲田大学で国際交流推進に携わり、オックスフォード大学で教育学修士号を取得。2017年よりOECDに勤務し、教育スキル局および東京センターを経て現職に至る。専門は成人教育、高等教育、スキル開発。
現在はどういうお仕事をされていますか。
(加藤静香さん)
「より良い暮らしのためのより良い政策」を理念とするOECDにおいて、私の仕事もまさにその言葉どおり、人々の生活をより良くするための政策立案をサポートすることです。専門分野は、スキル政策、人材開発、リスキリングです。
現在取り組んでいるのは、「スキル・ファースト」という考え方に基づき、学歴や職歴ではなく、個人が「何ができるか」に焦点を当てるアプローチです。これは採用時だけでなく、勤務評価や教育訓練においても、スキルを単位として設計・運用していく幅広い枠組みです。私は現在、OECD加盟国でこうしたスキルベースの取組がどの程度進んでいるかを調査し、改革を促すための政策立案支援やベストプラクティスの共有に努めています。
大手民間企業、特にテック企業では、10年ほど前から大卒要件をなくし、能力で評価する採用へと移行する動きが広がっています。これにより、女性や大卒でない人材からの応募・採用が増え、人材不足の解消につながるだけでなく、職場の多様性の推進にも貢献しています。
スキルベースで考えると、意外な転職パスが見えてくることもあります。例えば、カスタマーサービスはAIの活用によって需要が減っていく職業分野の一つといわれていますが、その仕事の要となるコミュニケーションスキル、とりわけ傾聴力に着目すると、ケアマネージャーやソーシャルワーカーといった、今後も拡大が予測される介護・医療分野とのスキル親和性が高いことがわかります。また、自分の能力と目指したい職業とのスキルギャップを理解することで、戦略的にリスキリングすることもできます。どのようなスキルのニーズが高まり、あるいは縮小傾向にあるのかといった分析はOECDでも行っていますが、加盟国の分析データを仕事や学びにどう活用できるかを検討することも、私たちの重要な役割の一つです。
OECD に入ったきっかけを教えてください。
OECDに興味を持ったきっかけは、外務省JPO(ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー)の説明会でした。当時、国際機関への就職を目指していたわけではありませんでしたが、オックスフォード大学留学中に、ロンドンで開催されたJPO説明会に情報収集の一環として参加しました。そこで、「修士号があり、2年の職歴もあるなら、まずは応募してみてはどうか」という話を聞き、応募に至りました。
教育がご専門とのことですが、ユニセフや世界銀行は考えなかったのでしょうか。

世界銀行などが、児童の就学率向上や識字率改善といったプロジェクトを多く手がけるのに対し、大学での勤務経験があり、高等教育政策や大人の学び直しに関心のあった私には、OECDが最も適していると考えました。
国際機関を志す多くの方が、開発や国際協力に関心を持つ傾向がある一方で、国際機関には様々な組織があり、それぞれが多様な人材を必要としています。キャリアの最終目標としてだけでなく、キャリアパスの一つとして国際機関を視野に入れる人が、今後増えるのではないでしょうか。例えば、ITや広報などのバックオフィス系人材も、民間企業だけでなく国際機関で活躍できる場があります。
私がOECDで働き始めた約8年前は欧米出身者が中心で、自身がマイノリティであることを強く感じました。今もその傾向はあるものの、最近はOECDでも人事制度が徐々に変わり、国籍や性別などの多様性がより重視されるようになりました。異なるバックグラウンドを持つ人材が増え、日本人でも民間企業出身者が採用されるケースが増えています。
ご自身の分野の専門性を深めることになったターニングポイントはありますか。
私にとってターニングポイントとなったのは、OECDで初めて筆頭著者として執筆した報告書でした。そのレポートは『Emergence of Alternative Credentials(代替資格の台頭)』と題され、学位取得ではない、半年程度の短期講習などの学びをテーマにしたものでした。
執筆直後にコロナ禍が発生し、多くの政府がリスキリングを重視する政策方針を掲げるようになったことで、私の報告書が参照される機会が増えました。特に欧州委員会が、リスキリングのツールとしてマイクロクレデンシャルをEUレベルで推進すると打ち出し、事前調査やEU各国における政策立案・実施の支援に協力することになりました。
世間的に注目される前にこのレポートを執筆しており、かつ他に体系的な研究も少なかったため、継続的にプロジェクト予算がつき、専門家として会議に招聘されるようになりました。今では、この報告書は200件以上引用され、毎年10回近く国際会議に登壇する機会を得ています。
このレポートはJPO時代に執筆したもので、運に恵まれた面もありましたが、これをきっかけにエキスパートとして働く足掛かりを得ることができ、昇進時のアピールポイントにもなりました。もともとの担当職員が退職し、私がその後任を務めることになったのですが、その背景には、日頃から雑務も含めて何事にも積極的に取り組む姿勢を評価してもらえたことがあったと聞いています。また、レポート完成時には多くの報告書が発表待ちの状態にあり、私の報告書も後回しにされそうになったことがありました。その際、「今まさに旬のテーマであり、数か月後には情報が古くなる」と訴え、早期の発表にこぎ着けました。振り返ってみると、あの時期に適切なタイミングで公表できたことも、大きかったのではないかと思います。
OECD で働く魅力やメリットを教えてください。
OECDで働く魅力は、政策への影響力と多様性です。
まず、政策に対して高い影響力を持つリサーチができることです。国際機関の影響力低下への懸念が高まる中で、組織の価値を探求し続ける必要性を感じています。エビデンスに基づく政策形成の必要性は今も変わらず、自国データだけでなく、国際比較可能なデータや他国の成功事例を踏まえた政策議論は極めて有用であり、今後もその重要性は変わらないと考えています。
もう一つの魅力は、国際色豊かな多様な人材が働く環境です。8年経った今でも、日々学びや気づきがあります。OECD以外の場所で新しい仕事に挑戦したいと思うこともありますが、OECD内部での異動も2度経験しながら、常に面白い仕事に携わることができ、刺激的な日々を送っています。
これから手がけたい業務はありますか。

現在、日本の厚生労働省と共同で、人手不足への政策アプローチに関するレビューを行っています。人手不足はニュースで頻繁に取り上げられる一方で、パートタイムで働く女性や、定年退職後に非正規で働く高齢者など、まだスキルを十分に活用できていない人材も存在します。また、テクノロジーの発展とともに、一部の分野では余剰人材も発生しています。既存の人材をいかに有効活用するか、そして生成AIや機械化によって代替される仕事が増える中で、人材をいかに成長産業へシフトさせ、保有スキルを他分野へ転用できるか、といった分析を進めています。
日本は高齢化社会であるため、世界的に見ても人手不足対策が進んでいます。人手不足への対処法は多岐にわたりますが、例えばサービス業や製造業では機械化やロボット活用による補完が進み、介護・福祉分野では給与水準の改善や昇進キャリアパスの可視化といった取組が進められています。
一方で、日本がなお課題を抱えている点として、スキルを持つ女性が十分に活躍できていないことが挙げられます。男性の家事・育児への参加は増えてきているとはいえ、依然としてその多くを担っているのは女性です。就業率だけを見ると状況は大きく改善しているように見えますが、スキルレベルで分析すると、男女差がより鮮明になります。大卒男性のスキル活用は定年まで大きく落ち込むことがない一方、大卒女性のスキル活用は年齢とともに低下する傾向があることが分かります。
これまで欧州との協力案件が多かったのですが、今回初めて日本との仕事に携わり、自国の政策形成に貢献できることに面白さを感じています。今後は東南アジアや東アジアとも連携し、太平洋地域への貢献を高められたらと考えています。現行プロジェクトでも韓国やシンガポールと情報交換をしていますが、今後もこうした地域への貢献を深めていきたいです。
学生や若手へのアドバイスをお願いします。
失敗しても気にしすぎず、何事にも一喜一憂しすぎない姿勢をお勧めします。
パリは日本から遠く、週末に気軽に帰国するのは難しいでしょう。食文化や水質など、ちょっとした違いがストレスになることもあります。仕事の進め方や同僚との付き合い方も、日本とは異なることが少なくありません。そして何より、不安定な契約形態に戸惑う方も多いと思います。しかし、一度の失敗や、うまくいかないことがあったとしても、過度に落ち込む必要はありません。
国際機関への応募は、そもそもポストが少なく応募者が多いため、面接で不採用になることはよくあります。また、上司から厳しい言葉をかけられることもあるかもしれません。こうしたことを一つひとつ気に病む必要はありません。
逆に、成功したからといって過剰に喜ぶ必要もありません。昇進も運に左右される部分があるため、うまくいったことを鼻にかけたり、傲慢になったりするのは得策ではありません。淡々と、謙虚に次のステップへ進むことが大切です。
私の英語はネイティブレベルではありませんが、大学院で培った文章力が強みです。データ分析能力と合わせて、こうしたスキルを身につけるためには、学校や大学での勉強に真摯に取り組むことが重要です。
また、日本では「大雑把」と言われることが多かったのですが、OECDでは「細部へのこだわり」が強みの一つだと言われ、同僚や上司から、細かなデータの誤りを指摘できる点を感謝されています。これは、日本では当たり前だった私の日本人らしさが、国際的な文脈の中で価値を持っているということなのだと思います。
国際機関での勤務開始直後は、まず家探しなど生活基盤を整え、仕事に集中できる環境を確立すること、そして同僚との関係を築くことが重要です。慣れないうちは、一緒にランチに行くのも一苦労だと感じるかもしれませんが、「明るくて感じの良い人だ」という印象を持ってもらうことは大切です。OECDにはサークル活動のようなコミュニティもあり、スポーツなどを通じて仕事以外の人間関係を築くことも有効です。

(加藤静香さん、江頭勇太さん)
2026年1月
インタビュー:
江頭勇太OECD経済総局ジュニア・エコノミスト(JPO)
OECD日本政府代表部
写真撮影:
OECD日本政府代表部