OECD邦人職員の声:北原貴子OECD科学技術イノベーション局局長室アドバイザー
令和8年8月27日
北原貴子 Ms Takako Kitahara
新卒で三菱総合研究所に入社し、約9年にわたり先端技術や関連政策・戦略に関するアドバイザリー業務に従事。2024年1月にJPO派遣制度でOECDに転じ、OECD科学技術イノベーション局局長室でアドバイザーとしてAI・デジタル、経済安全保障、産業政策等に携わる。慶應義塾大学法学部卒業、ケンブリッジ大学公共政策修士修了。
現在はどういうお仕事をされていますか。

(北原貴子さん)
OECD科学技術イノベーション局において、局長付のアドバイザーとして、局長や局幹部の業務管理のほか、科学技術イノベーション局が所掌するAI、データ、産業、科学技術、経済安全保障といった幅広い政策分野に関わるOECD事務総長、事務次長、局長らのスピーチ原稿作成や組織の戦略文書策定に従事しています。
また、科学技術イノベーション局におけるグローバル関係担当として、OECDに加盟していない国々へのアウトリーチ業務も主導しています。
また、科学技術イノベーション局におけるグローバル関係担当として、OECDに加盟していない国々へのアウトリーチ業務も主導しています。
経済安全保障とは何でしょうか。
経済安全保障とは、経済的威圧や部品等のサプライチェーンの脆弱性等により国の経済力が脅威にさらされている状況から自国を守るための考え方で、科学技術イノベーション局では、半導体、AI、量子技術といった重要政策分野のサプライチェーンをいかに強化していくかが議論されています。また、鉄鋼や造船という伝統的な産業分野でも、非市場的措置(政府の巨額補助金や優遇策などによる市場歪曲)が横行しており、より公平な市場環境を作るためのルール作りやガバナンス強化を行っています。科学技術政策分野では、研究セキュリティという概念が注目されています。重要な研究知識の漏洩は安全保障上のリスクを孕んでおり、国際協調による科学の発展を守りながら、いかに機密性の高い技術や知識を守れるかが、今、非常に注目されています。
経済安全保障は国によって課題意識や優先事項に違いがあり、OECDでも今まさにその定義を議論し、どの局がどのテーマで経済安全保障をやっていくべきか、話し合われている段階にあります。各国の経済政策や産業構造の変化、技術革新に伴う競争の激化などを背景に、どのように公平に競争できるか、どのように他の国と連携して産業を促進できるかということに多くの国々が関心を持っており、OECDでも注目が集まっている政策分野です。
経済安全保障は、科学技術イノベーション局内外で分野横断的に取り扱われており、局を跨いでは、例えば貿易農業局と密接に連携しています。貿易農業局は貿易データを扱っていて、国境をまたいだ重要鉱物やマテリアルの移動を見られるのですが、科学技術イノベーション局は税関を通過した後の国内のトラッキングができます。貿易農業局との連携により、国内、国外の両面を見て、サプライチェーンのどこにボトルネックが生じているのかを特定することができます。私は科学技術イノベーション局の局長室にいるので、様々な部局との連携も業務の一つになっています。
経済安全保障は国によって課題意識や優先事項に違いがあり、OECDでも今まさにその定義を議論し、どの局がどのテーマで経済安全保障をやっていくべきか、話し合われている段階にあります。各国の経済政策や産業構造の変化、技術革新に伴う競争の激化などを背景に、どのように公平に競争できるか、どのように他の国と連携して産業を促進できるかということに多くの国々が関心を持っており、OECDでも注目が集まっている政策分野です。
経済安全保障は、科学技術イノベーション局内外で分野横断的に取り扱われており、局を跨いでは、例えば貿易農業局と密接に連携しています。貿易農業局は貿易データを扱っていて、国境をまたいだ重要鉱物やマテリアルの移動を見られるのですが、科学技術イノベーション局は税関を通過した後の国内のトラッキングができます。貿易農業局との連携により、国内、国外の両面を見て、サプライチェーンのどこにボトルネックが生じているのかを特定することができます。私は科学技術イノベーション局の局長室にいるので、様々な部局との連携も業務の一つになっています。

OECDの仕事で、これまでで一番おもしろかった業務や出来事について教えてください。
2025年、2026年に2年続けてジェリー・シーハン科学技術イノベーション局局長の訪日の調整に携わり、同行しました。それを元に、経済安全保障を局内の優先課題として形作ることができたのがおもしろかった仕事だと思います。
詳しくお話すると、2025年に、日本の関係省庁を訪問した際、話題の至るところで経済安全保障の課題認識が繰り返し取り上げられ、各国共通かつ分野横断的な新たな課題としての重要性を感じました。
これを契機に、局内の重要課題として経済安全保障を据えるため、事務総長を含む幹部への報告資料や局長の発言要領に経済安全保障の視点や論点を反映させていきました。また、OECD日本政府代表部や各省庁の関係者の方々とも、出張の結果共有のみならず、その後の科学技術イノベーション局の取組みを随時共有し、連携強化に取り組んできました。
そして、2026年2月には、日本政府の支援の下、経済安全保障をテーマとしたOECD・東南アジア政策対話イベントを開催する機会をいただきました。開催に向けては、科学技術イノベーション局の視点から見た経済安全保障に関する基調講演とAI、造船、鉄鋼の各分野の個別セッションのコンセプトを構想し、局長や担当課長の発表資料や登壇者との事前調整等のとりまとめを行いました。特に局長講演の作成過程で、科学技術イノベーション局として初めて体系的に局全体の経済安全保障の問題意識や分析をとりまとめたことは局内にとって意義の大きいものだったと感じています。
また、イベント後には、OECDとしてはやや異例なのですが、政策対話イベントの成果文書を発表しました。
こうした成果が、コーマンOECD事務総長が2026年5月に訪日した際に発表した「日本と経済協力開発機構(OECD)との間の経済安全保障に関する協力プラン」の土台となっています。また現在策定に向け議論している科学技術イノベーション局の各委員会の4か年計画にも経済安全保障が優先課題に入っており、国際レベルでの議論のアジェンダ設定ができた達成感がありました。
経済安全保障については、米国を含む他の加盟国の関心も高く、OECDとしてマルチラテラリズム(多国間主義)の価値を発信するための有力な枠組みとなっていると思っています。OECD事務局として加盟国が直面する課題を捉えつつ、加盟国各国の専門的知見も活かしながら、グローバルなアジェンダに昇華させ、難しい局面にある国際協調を強化する仕事を今後も続けていきたいと思っています。
OECDに興味をもったきっかけを教えてください。
OECDで働く前は日本のシンクタンクで勤務していたので、世界のシンクタンクであるOECDに興味がありました。前職でも国際電気通信連合(ITU)の日本代表団の一員として、6年間、国際周波数分配の国際交渉に従事していました。交渉は難航することが多く、多極化する国際情勢の中で合意形成を行う難しさに直面しました。OECDは同盟国を中心に構成されており、エビデンス基盤を加盟国と一緒に作りつつ、自らも政策提言を行っていることを踏まえ、OECD職員の立場から、自国主義と国際協調が共存できる世界の実現に貢献してみたいと考え、大学院留学を機に転職を意識しました。OECDに来てからも、マルチラテラリズムにとって厳しい機運が高まる中、国際機関がどういう役割を果たせるのかということは日々の業務の中で考え続けています。
北原さんは、現在は正規職員ですが、最初はJPOとしてOECDでのキャリアを始められました。JPOのメリットを教えてください。
2年間という期間、OECDで経験を積めると共に内部で正規ポスト獲得に向け就職活動ができるというのは、大きなアドバンテージだと思います。外にいては分からない情報も入って来ますし、ネットワーク作りもできます。また、OECD日本政府代表部には正規ポスト獲得を後押しいただき、深く感謝しています。
これまでの人生を振り返り、ご自身の分野の専門性を深めることになったターニングポイントはありますか。
日本の国際プレゼンスや国際競争力の向上に貢献したいという気持ちで、日本がポテンシャルをもっている先進技術分野を中心に政策立案を行ってきましたが、自分の成長を助けてくれたターニングポイントを振り返りたいと思います。

1つめは、新技術の制度整備をするにあたって、官民連携を強化した経験です。前職でドローンの社会実装に向けて航空法の改正に携わっていたのですが、当初、産業振興を優先する立場と安全確保を重視する立場には大きな隔たりがありました。官民の委員会を運営し、信頼醸成や相互理解のため共通ビジョンを一緒に作っていくような文書を作成したことで、制度整備の加速に貢献でき、官民連携のポテンシャルを学びました。
2つめは、ITUの国際交渉を通して、国際的なバランス感覚を鍛えたことです。国際社会では、先進国と途上国の間では、技術や優先課題も異なり、経済圏や政治的背景によって利害関係も変わってきます。国際標準化会合において日本の規格を採用してもらうためには、技術的な専門知識だけではなく、国際情勢の嗅覚を養いながら、各国の政治・経済状況や力学を理解して交渉に当たる必要があると思いました。そうしたバランス感覚を養ってこそ、技術者のスポークスパーソンとして交渉に従事し、日本技術の国際標準化に寄与できたものと思っています。
3つめは、OECDの職務経験の中で、アジェンダ・セッティングの視点を身につけられたことを挙げたいと思います。政策課題や重要技術分野は数多くあり、その中で特定技術の国際連携基盤を推し進めるためには、まずはアジェンダに載せるということが重要です。特に今のポジションでは局全体を俯瞰してみられる立場として、次に議論すべき先進技術に関する課題認識や専門知見を分かりやすいメッセージやイニシアティブに変換し、発信することを日頃意識しています。
先進分野に関する専門性は日々アップデートに努めていますが、より横断的な、調整力やバランス感覚、訴求力といったところが自分の強みとして今の仕事でも活かされていと思っています。科学技術分野は新しい分野で、誰も正解を持っていないところに面白みがありますし、こうしたジェネラルな強みが必要な分野だと思っています。技術大国としての日本の潜在力を活かし、維持していくために、OECDの日本人職員としても陰ながら応援をしています。
2つめは、ITUの国際交渉を通して、国際的なバランス感覚を鍛えたことです。国際社会では、先進国と途上国の間では、技術や優先課題も異なり、経済圏や政治的背景によって利害関係も変わってきます。国際標準化会合において日本の規格を採用してもらうためには、技術的な専門知識だけではなく、国際情勢の嗅覚を養いながら、各国の政治・経済状況や力学を理解して交渉に当たる必要があると思いました。そうしたバランス感覚を養ってこそ、技術者のスポークスパーソンとして交渉に従事し、日本技術の国際標準化に寄与できたものと思っています。
3つめは、OECDの職務経験の中で、アジェンダ・セッティングの視点を身につけられたことを挙げたいと思います。政策課題や重要技術分野は数多くあり、その中で特定技術の国際連携基盤を推し進めるためには、まずはアジェンダに載せるということが重要です。特に今のポジションでは局全体を俯瞰してみられる立場として、次に議論すべき先進技術に関する課題認識や専門知見を分かりやすいメッセージやイニシアティブに変換し、発信することを日頃意識しています。
先進分野に関する専門性は日々アップデートに努めていますが、より横断的な、調整力やバランス感覚、訴求力といったところが自分の強みとして今の仕事でも活かされていと思っています。科学技術分野は新しい分野で、誰も正解を持っていないところに面白みがありますし、こうしたジェネラルな強みが必要な分野だと思っています。技術大国としての日本の潜在力を活かし、維持していくために、OECDの日本人職員としても陰ながら応援をしています。
OECDで働く魅力やメリットを教えてください。
OECDは、国の政策や予算編成を左右するような提言を行えるという意味で、政策的に大きな影響力のある機関であることが、まず大きな魅力だと思っています。日本に出張した際、OECDの提言やデータに基づいて研究開発予算や税制の決定判断をしていると聞き、OECDの影響力を実感しました。また、各国の一元データにアクセスできることもOECDで働くメリットです。例えば科学技術イノベーション局では、加盟国の産業統計データや貿易データ等を参考にしながら、半導体等の産業基盤の創出やサプライチェーン強化のための評価や政策提言を行っています。
また、個人のレベルでは、日本の組織文化とは大きく異なる中で、多様なバックグラウンドを持つ同僚達と協力して働き、かつドナー国の期待にも応えていくという、チャレンジングな環境に身を置くことができます。自分のコンフォートゾーンを抜け出して、胆力、適応能力、国際的バランス感覚を鍛えることが求められ、成長の毎日です。
これから手がけたい業務はありますか。
分野のこだわりはあまりなく、新しいことに挑戦していきたいと思っています。大局の意思決定をサポートすることができる今の仕事は楽しく、今後もさらに深く取り組んでいきたいと思っています。引き続き国際社会の共通課題に常にアンテナを高く張り、時流に沿った情報やメッセージを発信していきたいと思っています。
ただこういった仕事は、私一人でできるものではなく、各課の専門家たちの知見なしには成り立ちません。科学技術イノベーション局の各課を俯瞰できる立場にあることを活かして、科学技術イノベーション局の各課との連携を深め、課をまたいだシナジーを最大化できるよう努めていきたいと考えています。
また対外発信、ドナー国との連携、組織内の情報連携や風通し強化等のための組織内での環境整備にも関心があり、貢献していきたいです。
JPO受験者、学生等へのアドバイスをお願いします。
今、国際機関の存在は改めて問われています。その問いは、自分自身の日々の業務への問いであるとも感じています。毎日の仕事に意義を見出し、新しいことを考え続けられる人が、国際機関での職務経験を充実化できるものと思っています。また、高い意識は必要である一方で、国際機関だからといって特別な仕事をしていたり、特権が与えられているものではないので、日々の仕事に丁寧に取り組んだり、同僚やカウンターパートに敬意を持って接したりといったことも必要です。組織文化や環境のせいにしないという社会人として基本的な姿勢も問われると思っています。国際機関では個人主義も強いのですが、上司や同僚と一緒に成長できるような視点をもって、組織内外の力を巻き込みながら、チームとして提案や遂行を行うことが成果への近道なのかなとも思います。
学生へのアドバイスとしては、自分の興味関心を深掘りしていって欲しいと思っています。国際機関は専門性が必要なポストが多いので、自分が何に熱意をもって取り組めるのかを知っていると強いのではないでしょうか。

(北原貴子さん、野田莉々子さん)
インタビュー実施:
2026年7月
インタビュー:
須賀美奈子OECD日本政府代表部一等書記官
野田莉々子OECD貿易農業局インターン
写真撮影:
OECD日本政府代表部