OECD日本政府代表部職員の声:平塚二朗書記官

平成29年1月31日

経済協力開発機構と環境

OECD日本政府代表部一等書記官 平塚二朗


平塚二朗書記官

   私は、環境省からOECD日本政府代表部に出向し、OECDの活動のうち環境に関する分野を担当しています。その活動内容については、代表部ウェブサイトのOECDの役割OECDによる分析と提言 のページをご覧いただくとして、ここでは代表部での約2年半の経験に基づく私個人の印象や見解を述べさせていただきます(記載の内容は2016年3月末時点のもの)。

1 なぜOECDで環境なのか

   OECDの目的は、経済成長、開発及び貿易の3つであり、環境保全は含まれていません。環境問題が本格的に議論されるようになったのは、OECD設立から10年後の1971年に環境委員会(現・環境政策委員会)が活動を開始してからです。これは、日本において環境庁(現・環境省)が設置された年と同じで、経済成長を追求した結果として生じた公害への対応が、日本を含む先進国にとって急務だったことを意味します。その後、2009年のOECD閣僚理事会でのグリーン成長宣言の採択を受けて、環境面及び社会面で持続可能な経済成長を目指すという新たな成長モデルを実現するために、OECD全体でグリーン成長に関する活動が進んでいます。最近では、追加的な環境対策を講じないことの長期的な経済成長(GDP)への影響のモデル分析(CIRCLEプロジェクト )も行われています。開発に関しては、途上国への開発支援の4割近くが環境に焦点を当てたものになっており、開発協力のあらゆる側面への環境の統合を促進するなど、環境と開発は不可分なものとなっています。貿易に関しても、貿易と環境合同作業部会を設置し、環境物品・サービスの貿易に関する分析のほか、貿易活動による環境への影響と、気候変動等の環境変化による貿易への影響という両面からの分析を行っています。このように、環境は3つの目的に密接に関係していると言えます。

2 OECDにおける「環境」の特徴

   OECDでの様々な活動分野と比べて、環境分野はユニークな側面がいくつかあります。


   (1) 事務局に日本人職員が多い


   OECD事務局の中で、私のカウンターパート(仕事相手)となるのは主に環境局ですが、環境局には10名もの日本人職員が活躍しており、OECD事務局で最も日本人の数・割合の多い局の1つです。日本人職員の皆さんは、ヤングプロフェッショナル(YP)プログラムやJPO派遣制度から正規ポストを獲得された方、日本の省庁や独立行政法人から出向されている方、そして英語・仏語を使いこなすアシスタントの方がおり、様々なバックグラウンドをお持ちです(事務局の採用に関しては、採用情報をご覧ください)。さらに、4人いる事務次長(事務総長に次ぐナンバー2)のうち環境を担当しているのは、玉木林太郎事務次長です。事務局職員には公平性が求められますので、特定の国(出身国等)に肩入れすることはできませんが、やはり日本語でコミュニケーションができるということで、私にとっては大変仕事のしやすい環境になっています。日本人職員の昇進・増加の支援も代表部の役割の1つですので、更なる日本人職員の活躍に向けて取り組んでいきたいと思います。


OECD環境局の邦人職員の皆さんと


OECD邦人職員の皆さんと

   (2) ルールが多い


   OECDの重要な役割にルール作りがありますが、OECDが策定したルールの最も大きな割合を占めているのは、環境関係です。ルールとは、主に理事会決定(法的拘束力あり)及び理事会勧告(法的拘束力はないが実施が強く期待される)の2つがあり、現在217件ある理事会決定・勧告のうち、環境・化学品分野のものは実に69件、全体の1/3近くを占めます。OECDに加盟するためには全ての理事会決定・勧告を順守する意欲と能力が必要であり、ほとんどの加盟国が現に順守しているため、普段これらを意識することはあまりありません。他方、加盟審査に当たっては、新規加盟国がこれらを順守できているか、あるいはその意欲と能力があるかを厳格に審査する必要があります。環境分野の理事会決定・勧告には、新たな法制度を策定する必要があるものもあり、70件全てに対応するには政府を挙げた取組が求められます。


   (3) 分野横断的作業が多い


   私が担当している委員会は、環境政策委員会と化学品委員会の2つですが、特定の委員会に属さない分野横断的なプログラムの取りまとめも行っています。具体的には、グリーン成長、低炭素経済のための政策調和、水に関する統合理事会勧告などです。OECDでは、低炭素経済のための政策調和プロジェクト を始めとして、OECDや各国の主要政策に環境を主流化するための取組が盛んです。これまでは環境のことにあまり関係がないと思われていた省庁や政策分野に対して、異なる政策目的(例:気候変動に関する国際的な目標)と調和することの必要性を認識させるきっかけとなります。こうした横断的な取組は、各国の縦割り行政を打破することを企図していますが、OECDの提言やツールを各国が実際に活用していくことは必ずしも容易ではなく、他の国の成功事例や失敗事例を参考に、どうすれば政策改革が実現するかという分析を行うのも、OECDの重要な役割だと考えています。

3 環境担当の代表部員(環境アタッシェ)としての役割

   他の代表部員も書いているとおり、我々の役割は日本とOECDの橋渡しです。これは単に東京からの指示を執行したり、OECD事務局からの要請を東京に伝えたりするだけではありません。OECDの活動は、加盟国が合意した2か年の作業計画に基づいて事務局が政策分析を行い、それを会合で議論し、最終的にレポートとして発表するというのが主なプロセスです。環境分野だけでも連日のようにレポートの素案や修正案が送られてくるので、このレポートがどのような状態にあり、何が求められているのか、日本とはどのように関連するか、どうすれば役立ち得るかといった情報を伝えることにより、日本として意見を提出したり、将来の政策に役立てたりすることの手助けをするように心がけています。


   これまで環境行政に携わってきた経験や知識を生かして、専門的な議論に積極的に参加するようにしています。言語の壁もあり、日本の背景事情や取組事例があまり海外では知られていないことも多いため、欧米中心になりがちな議論を日本や欧米以外の加盟国にも関連するものにしていく必要があり、事務局からも日本からのインプットが期待されています。


   成果が発表された後は、日本国内での広報が重要です。日本語訳を作成することも有用ですが、OECD事務局職員が日本を訪問し、活動を発表してもらう機会を作っています。



   さらに、各国代表部との連携も重要な役割です。例えば、日本が取り上げてほしい作業を提案しても、各国の支持が得られなければ実現することは困難です。このため、環境分野の活動に熱心な各国のアタッシェに声をかけて非公式なミーティングを企画するなど、日ごろから情報交換を行っています。実は私のように環境だけを専任しているアタッシェは少なく、他の国では農業、開発、エネルギー等の他の分野を兼任していることが多いため、そうしたアタッシェが環境関連の活動を完全にフォローすることは困難です。環境専任である私としては、OECDの環境関連の中身の議論だけでなく、会合運営や手続等についても一番詳しい環境アタッシェになるべく情報収集を行い、言わば加盟国の番犬として、必要な手続が取られていない、会合文書の作成が遅い、十分な説明がないといったガバナンスの問題を提起して、改善を促すようにしています。こうした指摘は当然ながら事務局からは喜ばれませんが、会合の内外で各国の出席者が支持してくれたり、事務局からも実は気になっていたと耳打ちされたりすることがあります。日本政府代表部は加盟国の中で最も大きな代表部であることから、加盟国全体のことを考えた行動も重要な役割であると考えています。


各国の環境アタッシェと(OECD環境大臣会合に向けた代表部向け説明会にて)


各国の環境アタッシェと(OECD環境大臣会合に向けた代表部向け説明会にて)